24/大曲

Aug, 2009

大雪山から日本海に流れる石狩川は,平地を暴れて広大な泥炭地に点々と三日月湖を残す石狩平野を作り,道東で一気に太平洋に注ぐ十勝川や釧路川は巨大な湿原を編んだ。天塩,頓別,常呂,網走など北に向かった川は,河口で千島海流の強い流れにせき止められ,大小の汽水湖が点在する独特の海岸線を成している。北海道の美しい自然の風景は川と海がせめぎあった歴史だ。

ジャッカドフニを辞したボクたちは,脇の土手に上がり網走川を見下ろしていた。きらきらと光る川面を見ているうちに,ふとこの堤防を内だち沿いにぐるっと歩いて,地形を確かめてみたくなった。

「ひとつ,大曲がってみるか。」
「うん。タロー,行こ!」

「大曲がる」で意味が分かったのかよ…ボクは慌てて後を追う。

網走川は阿寒岳の中腹に源を発するが,海に出る直前で,天都山を西に迂回しようとした行く手を今度は三眺山という丘陵に阻まれ,Uターンするようにその狭隘を抜けてオホーツク海に注いだ。この言わば予期せぬ蛇行のために,東西に長く土砂を堆積し,本来河口付近にあるはずの網走湖をずっと内陸に作ったのだろう。満潮ともなれば強い潮の流れが川を遡るため,網走湖はほとんど汽水湖と言える水質を持っているのだ。

大曲は太古のある嵐の日,網走川が進路に窮した跡をそのまま残している。

広い北海道の平地を蛇行する川は外側にも何度となく氾濫を繰り返したために,自ら堆積した土砂の間を,内外とも平等に削ってゆったりと流れる。

ヨーロッパの内陸を流れる大河にも似て,両岸ともに湿地のブッシュを作っているので,内側からも川岸には容易に出られない。

その遠い対岸にまぶしいほど黄色く光っている野原が見えた。

「ひまわり畑らしいな。」
「あそこ,行ってみたい。」


ボクたちは国道の橋まで来たところで大曲の旅を終え,国道沿いを戻ることにした。橋のたもとには真新しい広場が出来ていて,タローはトイレの自動扉に驚いていた。

のどかだ。

この数日の間に色々なことに出会い,東京を出たのが遠い昔のように思える。旅はまだこれから中盤にさしかかるところだ。

目次へ25/ひまわり畑へ