28/つばさ(3)

Aug, 2009

一見,ひんしゅくな行動には,すべて納得に足る理由があった。

液晶テレビは一人暮らしに一点花を添えようと,自分の貯金をはたいたものだった。車を持たない身としては,山の手地区でないと生活できないし,ブロードバンド環境を考えると,新しいワンルームマンションの方が結局安くつく。大学からの連絡やレポートなどでインターネットが不可欠だからだ。金髪は先輩から教わった処世術だった。農場の集団バイトに出た際,とにかく目立っていれば,ワリのいいホタテ養殖の声がかかる。金髪と鉄のような筋肉で見事おいしいバイトをゲットしたという。この時期は居酒屋のウエイターなので黒っぽい髪に戻っている。下町にある居酒屋までの交通手段は,先輩から譲り受けた自転車である。行きはよいが帰りはずっと急坂を登る。通学にはバスや友人の車で行き,ほとんど無遅刻無欠席。居酒屋の客にもかわいがられて今度は測量のバイトも得たという。

話を聞きながらドレミの目が白黒している。ボクは両手をとって「あっぱれ」と褒めたい衝動を必死にこらえた。何しろ底抜けのお調子者である。下手に褒めてはいけない。

「美味しい魚は食べてるか?」
「そんな贅沢はできません。」

目下,車の免許を取るために資金を貯めている。この冬はバスで頑張り,研究室に入るまでに中古車を買う計画を立てている。学費とアパート代の他は親に負担はかけられないからだ。どうしても魚が食べたくなると,自分で堤防まで釣りにいくと言う。

「釣れるのか?」
「ほとんど釣れません。」
「よし,今夜は喉元まで刺身を食わしてやる。まずは大学を案内せい!」

帰りは送ってあげられないので,つばさには下町まで自転車で走らせた。

 

←洗車を手伝わせる。

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