2年ぶりで訪ねたのに,居酒屋いしざわのおかみさんは
「ランプのお客さんでしょ。覚えてるよー」
と,うれしいことを言う。お世辞上手なおやじさんはドレミを指差して笑う。
「オレの美人リストに入っている。」
ボクらの北の居酒屋である。
何にします?と,おかみさんが聞く。一昨年はあれもこれもみんな注文したいところを,胃袋の許容量に鑑みてあきらめたものだが,今年はつばさという無限の胃袋持参である。
「とりあえず生ビールと,こないだアブラガニが美味しかったんですけど…」
おかみさんが勘定書きに「生」「かに」と書く。単に「かに」なのである。朝,おやじさんが競りに勝てばタラバガニ,負ければアブラガニ,眼鏡にかなうものがなければ「なし」なのである。
今夜は競りの首尾がよかったらしく,皿に山盛りのタラバガニが運ばれてきた。ドレミとつばさが競って食べ始める。
←これで半分
生の魚がそれほど好きでないボクは生ビールを干したあと,帆立バターで馬鈴薯の焼酎を飲りながら,二人の健啖ぶりを見物した。
「えび」来る「めんめ」来る「いか」来る「ほっき」来る。何しろ黒板のメニューを端から全部注文していったのだ。それでもお勘定はつばさには聞かせたくないほどの値段である。いったい,山盛りタラバガニはいくらだったんだろう。
約束どおり喉元まで刺身でいっぱいにしてやって,つばさとはこの店で別れた。小さな自転車であの坂を登って帰るだろう。足元の危ないボクたちは車でランプに送ってもらった。
タローはぐーぐー寝ていたくせに,飛び起きて「ずっと起きて待っていました。」と言わんばかりに尻尾を振ってボクらを出迎えた。