37/エスカロップ

Aug, 2009

ロースカツをバターライスに載せてデミグラスソースを回しかけたもので,根室ではとんカツのスタンダードである。喫茶店がメインだが,食堂,レストラン,どこに行ってもメニューにエスカロップのない店はほとんどないと言う。ボクはこういうのに弱い。

どうせなら,発祥の店の正統な流れをくむといわれる喫茶店で味わいたいと,ばぶるさんにメールすると,店までのアクセス方法から営業時間,車の停め場所まで教えてくれた。

ところが,実際に根室市内に入ると,その手引きは使えなかった。町は夏祭りの中日で,大混乱していたからだ。メイン会場の中心街は交通規制が敷かれ,駐車予定だったスーパーの駐車場には車があふれていた。

だが,喫茶店「どりあん」を目指すボクたちにはかえって好都合だったとも言える。周辺道路はお目こぼしの路駐無法地帯となっていて,ふだんなら行列のできるどりあんも,夜店に客を取られてすいている。

エスカロップは微妙な味わいだった。外洋航路のロシア人が持ち込んだものだろう,ライスの量は多いが,それ以外はアレンジなしの欧風料理だった。ヨーロッパのレストランでメニューにポークカツレツを見つけて,楽しみに待っていると,たいていこんな感じのが運ばれてくる。あるいはどっさりパルメザンチーズがかかっている。江戸っ子はどうにもこのほんわか感が苦手だ。カツはガツンとウスターソースにマスタードである。シャキッとキャベツの千切りである。脂身を噛んだあとにはさわやかパセリである。パセリの添えてないカツライスをボクはカツライスと認めない。その点ではエスカロップは合格だし,客観的に考えればエスカロップの方が正統で東京のカツライスが邪道である。

とかなんとか言いながら,実際はエスカロップに生ビールでご機嫌のボクだったが,車に戻って愕然とした。夜祭りはますますヒートアップし,車や人で町はごった返している。

ドレミの運転で大丈夫だろうか。目指す銭湯は中央会場となっている交差点を挟んで町の反対側である。果たして,流れに巻き込まれるように,ボクたちの車は規制地帯に突っ込んでしまった。

実は根室には,この祭に合わせて混雑覚悟で入って来た。

明日,御輿が町から港の丘に立つ金毘羅神社に帰る。カメラマンshuの狙いはその行列だ。何を隠そう根室港の金毘羅さまこそ今回の歴史探訪のテーマである高田屋嘉平衛が建立した神社なのだ。

渋滞にはまったのを幸い,ボクは5Dを担いで助手席を飛び出した。金毘羅さまのお祭りなら,嘉平衛を偲ぶ催事が夜にもあるかも知れない。

 

なかった。…嘉平衛の嘉の字もなかった。

 

歌謡大演歌ショーに続いて,オートバイサーカスの準備が始まっていたので,ボクは早々に退散し,ドレミの運転で何とか銭湯に辿り着いた。

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