47/夏草の輪舞

Aug, 2009

霧多布の湿原が夕日に染まる。

木道をゆくと,凪いでいた風が日没を待たすにざわざわと吹き始めた。周囲の複雑な地形のせいだろいか,風向きがくるくると変わり,まるで夏草たちが輪舞(ロンド)するようにうねる。

旅も半ばを過ぎた。

湿原にしても,北見の畑,斜里の牧草地,そして川や湖畔にしても,およそ夏の北海道を旅するのにノースリーブやスカートは非常識である。危険ですらある。凶悪な虫が素肌を襲うからだ。

むろん,ドレミがフェミニンな装いにこだわるのは,ただボクの写真の点景となるためだ。ポーズは指示していない。ボクが決めるのは立ち位置だけだ。声が届かないほどの遠くから望遠で狙っても,構図の意図は心得ている。こうして二人で撮った写真はもう1万ショットを軽く超えているだろう。ボクは晩年,これらの写真を元に絵を描いて暮らすのだ(笑)

 

そして最近,タローである。いつもドレミといるうちに,どうやら被写体としてのノウハウを学習したようなのである。カメラを向けられたときの雰囲気を察し,ドレミと一緒にモデルとして振る舞う。10秒くらい動かないときもある。「OK!」の声がかかると,いっちょ前に緊張を解き,それからホッとしたように,ちゃっちゃか,くんくん自分の用に戻るのだ。どうやら仕事と認識し始めているようだ。

今回の旅行中,その姿に二人で何度も吹き出してしまった。

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