50/はるにれの木

Aug, 2009

十勝川沿いまで来ると,「はるにれの木,こちら」の看板がやたらに立っている。走っているうちに雨になっては何もならないので,気は進まなかったが看板に従ってみた。

河川敷の一本木を,ある写真家が四季を追って撮り続けたために有名になったそうだ。土手から見下ろすと一面の草原だった。

「いいじゃーん。」

景色ではなく,タローが遊ぶのにいいじゃーんなのである。全くもって,どうしようもなきレトばか夫婦である。

最近,子どもや孫と休日の遊園地にゆく人たちの気持ちがわかるようになってきた。苦行に近い混雑でも彼らには「いいじゃーん」なのであろう。

季節外れなのか名勝はるにれの木には誰もいない。まさしくプライベート草原状態であった。たまに訪れる人があっても,土手から眺めるくらいで,わざわざ下りてこようとは思わない。それこそ子どもに,こんなところイヤだとむずかられては早々に引き上げてゆく。

一方ウチの子は興奮状態である。

風の匂い,川の匂いをくんくん嗅いでは,全速力であっという間に遠く点となって消える。と,思う間もなくぱっかばっかと馬のような音とともに突進してきて,ぶひぶひふごふごブタのようなごきげん声を発する。

「お腹がすくまでここにいよう。」

ボクは車から画材を運んできて腰掛けた。

どう考えても画題にはほど遠い景色だが,見渡す限りこの一本木の他には何もないから仕方ない。

タローとドレミは隠れん坊に興じている。

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