洗濯が終わって日没までまだ間があった。雨はまだ降り出さない。ナビの画面をスクロールすると,十勝川の上流に清水という地名を見つけた。
「ここに賭けてみるか。」
行動は早い。開通したばかりの高速を使って移動した。ナビの地図を見ながら,広く河原になっていそうな場所を慎重に選びながら,草の未舗装道路に車を入れた。
「そんなこと地図見てわかるの?」
これだから素人は困る。山あいから平地に出た川がどこで州を作るかなど,プロフェッショナルが地形を見れば一目瞭然である。
4WDのスパイクを景気よく草地に乗り入れてタローと河原に走った。河原はあるにはあった。
…が,最大50cm幅だった。
「あわわわ,タロー!走るな!二人並んだら川に落ちるだろ。」
何のプロフェッショナルなのかは定かでないが,ともかくボクはきっぱりプロフェッショナルの看板を下ろすことにした。
川で遊べなくともタローが楽しければいいか。せっかく車を飛ばして来たのだ。
なーんだ,shuはまた座り込みかあ。じゃあ,まま,遊ぼうよ。あれ?車で読書。しょうがないなあ,ボク,ひとりで遊ぶか。
今にして思えば,ボクも車の中から写生すべきであった。地面は固く,この場所まで車を動かすのは何でもないことだったのだ。
夕暮れの河川敷,虫の威力は凄まじかった。ネットのパーカーを着ていたので油断していた。夢中で空の色を追っていた間に,ももの裏側からお尻にかけて,ジーンズの上からぷすぷすと刺されているのに気づかなかったのだ。
帯広市内の銭湯は天然温泉を使っている。少しは虫刺されにも効能があるやも知れない。
湯上がり,姿見に向かって裸のお尻を突き出し体を捻りながら,点々と赤く腫れた患部を探しては液体ムヒをつけてゆく。鏡に写る姿は情けないことこの上ない。
まあしかし,被写体になるためにスカートで旅しているドレミはすでに両足が腫れ上がるほど蚊やブヨに刺されている。彼女のその辛さを少しは共有したと思えばよいか。
とんだ春琴抄である。鏡の中でお尻を出した佐助が苦笑いする。