56/ウルフ(1)

Aug, 2009

 

美しい朝焼けの中で目覚めた。北海道最後の夜が明けた。

 

起きてから看板を見て気づいたが,この道の駅がある町は北島三郎さんのふるさとらしい。

 

青函トンネルの出口でもある。国道を松前に向けてさらに南下した。

珍しい光景に出会った。ボクたちの職場近くに相撲部屋がたくさんあるので,お相撲さんが町を歩いているのは慣れている。が,早朝,田舎町の国道をのっしのっしと半裸のお相撲さんが歩いているのはさすがにインパクトがある。

ぽつりぽつりと一人で,あるいは二人,三人連れ立って歩くお相撲さんの行き先を辿ってゆくと,その名もヨコヅナという道の駅があった。

この町はウルフ千代の富士の出身地だったのだ。立派な記念館が建っていて,お相撲さんは次々とその中に入ってゆく。

貼り紙を見ると,九重部屋が夏合宿中で入館料を払うと稽古を見学できるとある。両国近辺の部屋でも見学できるのだろうが行ったことはない。それなのに興を覚えたのはこの町のおおらかな空気のせいだろうか。ウルフの全盛期はちょうどボクたちの新婚時代だった。

開館時間にはまだ1時間以上あったので,漁港を散歩した。タローは波に洗われて見え隠れするブイが恐ろしい。

集魚灯のガラスに朝日が反射して遠く津軽半島がかすんで見える。ボクたちはお相撲さんの稽古が始まるのを待っている。静かな朝の海である。

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