A香はおとなしくて目立たない生徒でした.いつだったか友だちのカンニングのことで詰問したとき,涙をぽろぽろこぼしながらもその友だちをかばってひとこともしゃべらなかったことがありました.気の強い子だなあという印象を持っていました.
1年前,ドレミを成田に見送った帰りの高速で,ケータイにメールが着信したのです.
「shu先生,さびしいでしょー.元気出さなきゃ.」
そのときは,
「高校入試が終わってケータイ買ってもらったけど,まだボクくらいしかメール送る相手がいないんだろうな.」
と苦笑したものでした.
5月に東北をあてどなく写生旅行したときのことです.一人旅に慣れてきてはいましたが,用意した8枚のキャンバスが終わる頃には,かなり寂しくなっての帰路,ときどきNYCからメールが届くだけだったケータイに電話がかかりました.
「shu先生,元気ー?わたしね.数学のテスト,クラスで3番だったよ!すごいでしょ.先生のおかげだよ.」
これはさすがに心に染みました.
「で,でかした!」
こうして彼女はドレミをNYCに訪ねた唯一の子どもになったのです.それからも
「先生,千と千尋見てないんだー.カップルばっかりだから行けないんでしょ.仕方ない.私が一緒に行ったげよう.」
などと,超能力があるのかと思われるくらいの絶妙なタイミングで連絡がきたりします.予想通り最後の一人旅に出る前日にもメールが届き,返信合戦しているうちに旅行記ができてしまいました.
なお,彼女のメールにあったさまざまな顔文字は再現が難しいので,一般的な顔文字に置き換えています.