Aug. 5th, 2018

1. 旅に出ます


夏の繁忙期,ボクたちの仕事ぶりを人が見たら狂ったかと思うほどのハイテンションである。仕事は底抜けに楽しいし現実を忘れて熱中できる。

仕事が終わって二人になると急に静かになる。その静けさには慣れてきた。帰宅してもそれぞれ何がしかすることがあって,とくにドレミは掃除や洗濯に甲斐甲斐しい。11年間,片時も離れず一緒に暮して来た愛犬タローが死んで何もする気がなくなったとき,ドレミが淡々と続けた家事…その姿を見て,ああ生きるとはこういうことなんだと気づかされた。絵を描いたり世を憂えたり書を読んだりすることでなく、食事の仕度をし、洗濯し、髪を洗い、庭を掃く…それが生きるということなのだと。

二人でいるときは相手に気を遣わせぬようお互い意図して笑顔でいる。ときどきふと気づくと目に涙がいっぱいだったりして,そういうときは慰める。一人になるのは怖い。

強いストレスが体に出始めて二人とも胃腸をはじめ色々なところに神経症の症状が重い。医者に処方された神経性胃炎の薬や睡眠導入剤を毎日服用している。自分がこんな薬の世話になるとは思ってもいなかった。

ボクたちはこんな上がり下がり激しく心が不安定な状態で日々を過ごしている。犬を亡くしただけで大袈裟なと思われるだろう。けだしもっともだと自分でも思うが未だタローがいないという現実を受け入れ難い状態にいる。講習前半は昨日の合宿でピークを迎えた。

明日からボクたちは旅に出ようと思う。この旅は昨夏まだタローが体調を崩す前に計画しチケットを手配した。獣医に余命宣言され介護のために一度は中止を決めたものだ。それがあっけなく行ける状態になった。年初,そう言えばあのチケットはどうしようという相談になったとき,ボクは行くことを即断した。

ボクたちの旅はご存知のように予定を立てずに行く漂泊の旅である。宿の予約もしない。だが,いつも一か所だけドレミのリクエストする街を決めてそこを折り返し地点にしている。ドレミは1月からずっとその町の研究に没頭した。熱中した。激しいストレスと悲しみが波のように訪れる毎日にあってその作業は彼女の心の支えになったと思う。


パスポートの申請(5月)



コンサートの予約(1月)



パスポートと国際免許証をもらいに都庁へ行く(6月)



ん?イシちゃんの店(7月)

なぜにキングサイズ洋品店が関係あるのかは後のお楽しみ。



写真を撮るほどの意欲があるのかいささか疑問だが,水没させてしまった愛機5D Mark3も修理した(6月)。


二人の体調はよくないしボクの腰の状態も思わしくない。麻薬に近いような鎮痛剤も飲まなければならない。眼底出血による視界の歪みも取れないし視力も戻らない。正直,気力も乏しい。それでもボクたちは出掛けようと思うのだ。空港は前回と同じフランクフルト国際空港。以前のように波乱万丈の大冒険旅行にはならないだろう。でもどこかに何か変化のきっかけが待っているかもしれない。

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