Aug. 6th-7th, 2018

2. セントレア

忘れた!!

新しく買ったはずのカメラのバッテリーが見当たらないのに気づいたのは昨夜遅く。ヨドバシの翌午前中配達サービスに滑り込みセーフ。後日談だが元のバッテリーは荷物に入っていた。想定内である。


出発15分前に今度はドレミが「大きいトランクの鍵がない」と言い出して大騒ぎ。もうひと月前からパッキング準備していた荷物を全部出したところで大きいトランクは鍵がなくダイヤルだったことが判明した。


「ごめんなさい、ごめんなさい!ねえ、あたしゼッタイ認知症になるわ。お願いね。もう始まってるかもしれない。シュウが死んだらアタシの人生なんてない。」

確かにタローを亡くしてからこっちドレミのもの忘れは激しく、例は「鍵の束がない事件」や「お財布無くした事件」など枚挙にいとまない。つい一昨日も合宿先で「子どもたちのお菓子の段ボール積んでない事件」「食堂にカメラ置き忘れた事件」などを引き起こしたが、お菓子もカメラもバスの自席から発見された。忘れないように慎重に手を打ったときに限ってそれを忘れている。もはや昔のドレミではない。もちろんボクも昔のボクではない。今回の旅はボクたちの現在の能力に合ったものにしなければならない。忘れものくらいはニコニコ笑って対処するのだ。

午後2時出発。名古屋に向かう。羽田まで地下鉄で1時間の場所に住んでいるにもかかわらずフランクフルトに飛ぶのになぜ名古屋なのか。セントレアからの便が日程的に都合が良かったからだ。旅を計画したのは去年の夏、そのときの予定ではフライト前日の今日は愛犬タローを八ヶ岳原村に預ける日だった。原村から見ると東京も名古屋も距離は変わらない。成田と比べればむしろ知多半島が近い。タローの具合が急に悪くなったのは10月も半ばになってから。…そして諦めたこの旅行をキャンセルする間もなく,それから1ヶ月余りでタローは死んでしまった。チケットが残った。

ノディ渇いたね

近所の紀伊國屋で本を仕入れていくことにした。ドレミがついでにハガキを投函しようとしたところでサンダルのヒールが折れた。

「もう、サイテー!」

幸いショッピングモールにいたので靴屋さんもあったが、カメラのバッテリーにトランクの鍵、そしてヒールとアクシデントが続く。さすがにドレミがナーバスになるのもわかる。寧ろ出発前でよかったとしようよ。本屋に行ったついでに缶コーヒーを買うつもりだったのにヒール騒ぎですっかり忘れていた。甲州街道に出てから気づいた。

「ノディ渇いたな」

ドレミが笑った。笑わせようと思ったとっさの造語がこの旅の流行り言葉になった。


東名に乗った。東京の暑さは異常だ。あまりの湿気のために景色が歪むほど空気も霞んでいる。名古屋はもっと暑かった。


フライト


名古屋郊外の知人宅でボクたちはご内儀が心尽くしの歓待を受けた。車庫に車を預かってもらってセントレアまで送迎してもらうことになっているのだ。知人と言っても正確には3カ月前に初めて顔を合わせた。長くネット上での付き合いだったのを偶然、連休にオフでお会いしたものだ。



オフ会の席上,旅のことを話したら今回の運びとなった。むろん固辞したが押し切られた。そんなわけでセントレアの駐車場で車泊する予定だったのが布団に寝かせてもらってちゃっかり朝シャンまでした。



セントレア(中部国際空港)



空港での手続きは航空券やWi-Fiレンタルなど驚くほど楽になっている。ペーパーレス化も進んでいる。全てスマホの画面とQRコード。現代においては自分のモバイル端末を使いこなす力が旅にも不可欠になっている。よかろう。次は対応してやろうではないか。



ボクたちの便が掲示板に表示された。



機内用パジャマに着替え搭乗を待つ。



12時間の空の旅へ。編み笠や手拭いを首から提げたドイツ人観光客が大勢一緒だった。この夏の日本の暑さにはさぞかし驚いたことだろう。みなが笑顔だったことが救いた。また気候のよいときにも日本旅行に来てくださいな。



離陸。窓の下に美しい濃尾平野が広がる。



高揚感



北アルプス



得体のしれない和食



アムール川を越えた。

眠れないので映画を5本も見た。今の視力では機内のライトで本を読むことは難しい。ドレミは…タローを亡くしてからぴたりと大好きな読書をしなくなっていたドレミは8カ月ぶりに再び文庫本を読みふけっていた。

 


そして雲間に懐かしいライン川が見えて来た。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM


ルフトハンザLH73便は名古屋からの長いフライトを終えて刈入れを終えたばかりの麦畑がどこまでも続く平野を眼下に着陸態勢に入った。


↑目次へ戻る
→「3.」へ進む