Aug.8th, 2018

6.ドナウ!

へい!イビス

二日目のホテルを探すのに「エアコン有」の宿を検索したわけではない。そもそもそういう検索項目がない。想定外の暑さにとりあえず方針変更した第一夜…実は急遽イビスホテルを検索したのである。イビスはいわゆるビジネスホテルの大きなホテルチェーンで最近は日本にも進出しているらしい。リーズナブルでどこでもエレベーター,エアコン完備の同じクオリティが保証されている。逆に言えば面白みがないのでふだんは泊まらない。困ったときのへい!イビス…と言うわけである。だからいろいろな経験のできたこのニュルンベルクに最初から予定して来たわけではない。熱帯夜の予報の日,偶然近くでイビスがある町だったのだ。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM


ベッドは小さく壁は薄い。が,最低限の快適設備はキチンと揃っている。テレビの電源を外せば充電用のコンセントも確保できる。

シャワーの後,ドレミは裸のまんま勇ましく洗濯に入る。ボクは絞り係とタオルドライ係である。



EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

エアコンの当たるところに持参のハンガーで次々と吊るす。朝までに乾ききらなかったものは車の後部座席に干す。こうしてこの夜はエアコンの部屋でぐっすり眠り睡眠不足を解消した。


3日目の朝が明けた。ビジネスホテルは朝食が別料金で頼むと割高になる。だからドレミがパンを買いに行く,これも彼女の楽しみのひとつだ。今朝のパン屋は当たりだ。チョコレートいっぱいのデニッシュはおやつ代わりに持っていく。忙しければこれが昼食になることも度々である。



ホテルを出たところですぐに渋滞に巻き込まれた。どうやらナビが駅前通りを選んだらしい。車がなかなか進まないのでドレミが車窓からゆっくりと駅舎を撮影できた。ヨーロッパの駅はどこも美術館のように立派な建物を残している。どこかの国のようにみんなビルにしてしまうのはホントに利用者のためになっているだろうか。



町を出外れるところで最初の給油。コーヒーも買った。前回のオペルは油種が分からずに困ったが,イビサFRはオクタン価95と給油口にシールが貼ってあった。


国境の工場


早めに給油したのは他でもない。この日午前中はチェコとの国境にある村に向かう予定だったからだ。スタンドはたぶんない。Wi-Fiの電波も届かないことが多い。



EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

目的地には日本人の書いた旅行記ブログなどいくつかのあやふやな情報を総合してアプローチした。小さな村の交差点を拾いながら,ナビとグーグルマップをフル活用した。最後には標識を見つけてついにたどり着いた。


ここである。

出かける前に大事な知人からフェイラーのハンドタオルをお土産に頼まれた。調べてみると日本では大人気のブランドだが本国での知名度は低いことがわかった。取扱店もフランクフルトのデパートしかないらしい。むしろ日本の方が手に入れやすい。


そうこうするうち,ボクたちのいたニュルンベルクからほど近いこの国境の村にフェイラーの工場と併設された直売所があるらしいという件(くだん)の情報にぶつかった。どちらかと言えばそれを探し当てる冒険の方に触手が動いたが,ボクたちにすればハードルの低い小冒険であった。

◆検索で偶然この旅行記を見た方のために正確に記しておきます。

ホーエンベルク・アン・デア・エーゲルのグライム通り
google map フェイラーアウトレット


手間取ったのは直売所が今年リニューアルオープンしていたからだ。名前もフェイラー・アウトレットになっていた。店内でなんと日本人の買い物客に会った。実にフランクフルトを出てから初めて出会う日本人だった。さすがフェイラーである。



日本人の三人連れはチェコに在住だった。今朝早くプラハを発って国境を越えてきたそうだ。

爆買いの競演となった。

ボクたちにとってもたぶん彼らにとってもタオルは軽くて手頃な贈り物(土産物)になる。



ドレミの方が点数が少ないのに彼らの3倍ほど時間を要したのは一つ一つこうして縫い目をチェックしていたからである。アウトレットだけにB級品も含まれているからだとか…見よ!この真剣な眼差し。



駐車場も大規模改修中だった。メルセデスのトラックとクボタの重機がいいコンビネーションを組んでいた。日本人ツアーの観光バスでも誘致する予定なのだろうか。


ドナウの宝石

我が家の正月恒例行事と言えばウィーンフィルのニューイヤーコンサート中継,そのアンコール曲ラデツキー行進曲で会場の観客と一緒に拍手することだ。むろんこのしきたりはドレミが18才で嫁入りしたとき我が家に持ち込んできた。ニューイヤーコンサートと言えば「美しき青きドナウ」…つまるところウィーンフィルファンのドレミにとってドナウ川は特別な川なのである。風任せの気まま旅と言いながら,このあたりまで来るとドレミの「ドナウ行きたい」プレッシャーには抗し難い。

ボクたちはドナウの宝石と呼ばれるレーゲンスブルクにやって来た。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM


地下駐車場から出てきたところがこの風景だった。



EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM


ドナウ川に出た。30年近く前に同じように車で旅したウィーンやリンツから見るとずっと上流にあたる。

もの静かな一人旅の中国人青年と声を掛け合って写真を撮りっこした。あんまりおとなしくてポライトネスな子だったのでボクは彼のカメラを連写モードにし,橋をバックにジャンプを要求した。テイク3くらいで弾けた。楽しそうに笑った。


シュタイナーネ橋

EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM


フランケン地方に入って滅多に東洋人観光客と出会わない。観光地にお決まりの中国人団体客もいない。

それにしてもこの町の美しさはどうだろう。



レーゲンスブルクは北からレーゲン川とナーブ川がドナウに合流する交通要衝にあるため,1世紀にはもうローマ帝国軍の駐屯地が置かれていたらしい。



バイエルン公国時代を経てフランク王国に編入されても,帝国自由都市として大司教による自治が認められるようになったという。

神聖ローマ帝国ではニュルンベルクなどと並び帝国議会開催都市のひとつとなった。



惑星の軌道計算をした天文学者ヨハネス・ケプラーはプラハを離れてから,リンツ,ヴュルテンベルグ,ウルムなどを転々とした後,レーゲンスブルクに終の棲家を定めこの地で生涯を閉じた。



EOS 5D MarkⅢ + EF50mm f/1.2L USM


惑星が太陽の引力に引き寄せられるようにドレミがケーキ屋に吸い込まれていった。



絶品だった。


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