Aug.8th, 2018
8.グラっと勘違い
高速ステッカー
オーストリアの高速を走るには高速道路料金を支払い,その支払い証を手に入れる必要がある。パッサウの町を出るときにスタンドで支払いできるか聞いてみたが「ここではできない。」と言われた。当然である。まだドイツである。
高速の方のスタンドにも寄った。
「ないです。高速で買ってください。」
そうだと思った。そうだと思ったがナビ担当のドレミが納得するまでは逆らわない。
ドレミはガイドブックに書いてあることは無条件に信じている。そのガイドブックは,たぶん運転したことのない取材者がバスのドライバーに取材して「町のスタンドでも支払いできる。」などと無責任なことを書いたのだろう。支払いできるスタンドはごく限られている上に高速道路の国境に支払い所があるのでそもそも全くその必要がない。
前回オーストリアを旅したのは23年前だった。当時の高速道路はトンネル以外は無料だったが,その後有料化したらしい。有料と言っても旅行者の負担は10日で9€(1170円)だから良心的なものである。住民が年間の料金を支払っても87.3€(11349円),ボクたちが東京からセントレアまで高速に乗ると一往復で1万6000円かかる。
ざっと見積もっても10倍を超えている。日本の高額の高速料金は群がる天下り法人に吸い上げられている。「安全のため」と説明されれば誰も疑問を持たない。休日には渋滞に耐える。日本のドライバーは底抜けに人がいい。
かつて国境審査に使われていたエリアが今は高速料金の支払い所に利用されていた。
国境の両替所がこんな感じだった記憶がある。
料金を支払った証にステッカーをフロントガラスの運転席側に貼る。
A3号をリンツの手前でA9に乗り換えて南下すると景色が一変する。オーストリアアルプスから連なる山岳地帯に入る。
山を貫くトンネルの通行には別に料金がかかる。これは23年前にも有料だった。日本の料金所と似ている。一旦停止してブースの職員と軽い挨拶や会話を交わすのが懐かしい感じだ。
パーキングエリアで見た光景。
トラッカーがランチを調理中だった。
「どうだ,ひとつ食べるかい。」
フライパンいっぱいにごろごろと肉が焼かれていた。肉は遠慮したが写真の撮影許可はもらった。
山岳部のパーキングスペースは狭いのでうっかりすると暫く出られなくなったりする。
グラーツ
A9をオーストリア第二の都市グラーツに向かっている。朝,どちらに向かってどこに泊まろうかと相談しながら地図を見ているとき,ふとグラーツの地名が目に留まった。
グラーツって聞いたことあるなぁ。
「クララのおばあさまが保養に行ったところじゃない?」
そこだ!行き先はグラーツにしよう。アルプスの少女ハイジである。おばあさまはクララをアルムおんじに預け温泉保養地で吉報を待った。故川路夏子さんの名演技だった。原作でどうなっているかは知らず。ハイジと言ったらボクにとっては宮崎・高畑コンビの演出によるあのアニメだけだ。台詞もほとんど暗唱している。
今夜の宿は距離的にはこの旅の折り返し点となる。聖地「おばあさまの保養所」はその場所として相応しい…と思っていた。ところが!
ん?あー!!ラガーツじゃん!!おばあさまの保養地!
A9を南下し始めて勘違いに気づいた。
「あ!ラガーツの温泉!」
よく考えてみたらアルムの山とグラーツでは位置関係がおかしい。確かめるとラガーツはアルムの近く,スイスにあった。ラガーツとグラーツ…似てない(笑)こうしてボクたちは勘違いで決まった町へ向かうことになった。
オーストリア第二の都市グラーツは大きな町だった。クララのおばあさまにゆかりのありそうな温泉などあるはずもなし。何の予備知識もないので途方に暮れた。オーストリアのガイドブックに辛うじて2ページほどグラーツが載っている。
とりあえず城跡に登ろう。景色がいいって書いてある。
し,城跡ってアレか…。
まったくノー考慮タイムで真っ直ぐエレベーターの乗り場に向かう。第二次大戦の防空壕跡が利用されていて恐ろしく涼しい。
料金はさほど高くなかった。
「犬は口輪をしてください。」的な絵が貼ってがある。つまり口輪すれば犬もオッケーということだろう。
若干遊園地っぽい雰囲気を醸している。
スリラーカーが出発していった。
猛スピードのエレベーター
一気に頂上下にアクセスした。
おお!絶景!
シュロスベルクの丘と呼ばれていて,見下ろす町並みは世界遺産に登録されている。
頂上の城は侵攻してきたナポレオン軍によって破却されたが,この鐘楼と時計塔だけが破壊を免れたらしい。
難攻不落と言われたグラーツ城を彷彿とさせる石垣や城壁の跡が今も残る。
市庁舎
周辺に見どころは多いがもはや腰がブレイクして歩いたりトラムに乗ったりすることは難しそうだ。もともと勘違いで来た町,シュロスベルクの丘に登っただけでももっけものではないか。
せめてトラムを写真作品にしようとあがく腰痛男。
腰をかばった歩き方がコミカルである。
トラムの通過直後の横断をまねようとして,これはテイクスリーまで粘った苦心作。
広場に来た目的は水の補給。ここに座っている間にドレミがスーパーの場所を聞いて買い付けてきた。
ビールを一杯ひっかけてる…とカッコいいのだがファンタ。ビールより高い。
小路
舗道をゆくドレミが店の引力に引かれた。
よくまあ臆せずにこんな店にずんずんと入ってゆくものである。XOCOLATとはなぜかカタルーニャ語でチョコレート。スペインのチョコレート屋の支店だろうか。
お買い上げ(;^_^A
「けっこう安かったよ。食べる?」
…食べる。
おしゃれな民宿
グラーツを後にする。駐車場の清算中,カードをヘンなトコに入れんなよ。
今夜の当日特別割引お得な宿はグラーツ郊外のガストホフ。今日まで気温が高いがオーストリア料理をゆっくり味わうには料理自慢の民宿がいちばん。
おっしゃれー♪
でもエレベーターはない。
今日は夕焼けを撮りに出られないと思っていたら,レストランのテラスが夕焼けの中だった。
この店にはオーストリアのビールは一種類しかないとのこと。
プファンクーヘンズッペ
コンソメスープにクレープが浮いている…というよりぎっしり入っている。名物とのことだがたぶんドイツ料理。
これは地物のキノコの唐揚げ。うまいがこんなにどっさり盛られても…(;^_^A
マスのフライ
帰ってから白身魚で再現してみたがボクの方が断然旨かった。
ビールや料理のチョイスを丁寧に手伝ってくれたのはボクらのテーブルに就いた若いお調子者のウエイターだった。知ってる日本語は…
「テメーフザケンナ,イテマウゾ。…汚い日本語だそうですね。ナルト大好きです。」
びっくりしたことはこんなところのホテルにも汚い日本語を注意してくれる日本人が泊ったであろうこと,学んだのは現代の外国人にとっての日本は東郷平八郎でも歌舞伎でも小津安二郎でもなくナルトであること。帰国したらナルトを読もうと思った。
夕日が沈んでゆく。
「外に撮りに行かなくていいの?」
いっかなー。