Aug.8th, 2018

13.ザルツカンマーグート

ミラベル庭園

EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

朝食に一番乗りして早くに散歩に出た。


ミラベル庭園は新市街の外れ,ホテルからも間近である。映画ファンの超人気スポットなので早がけを狙ってのこと。



まだほとんど人がいないのでこんなこともできてしまう。



映画のシーンとの対比画像は独立したページを作ることにした。



記憶を頼りの撮影が映画シーンと似ているどうかどうぞお楽しみに。



この場所はおそらく誰でもご存知。ドレミの歌の終わりのところ…クライマックスである。



ガイドと一緒に日本人のツアー客がやってきた。一組一組記念写真を撮っている。ボクたちが着いたのはぎりぎりこうなる前,朝駆けして正解だった。

ボクの知る限り,いわゆる聖地巡礼と呼ばれる映画やアニメのロケ地巡りにいちばん熱心なのは中国人だ。


中国映画のロケ地として名高い小樽や網走の聖地などはタイヘンなことになっている。韓国人と日本人がそれに次ぐ。

これは明らかに人種に依る。アジア人は「ゆかりの地」を旅することにロマンを覚える。欧米人は「未知の土地」に惹かれる。ボクの旅は司馬さんの「街道をゆく」の跡を追うことが多いし,もちろん「街道をゆく」は日本史ゆかりの地を訪ねる紀行文だ。西行は歌枕を訪ね,芭蕉はその足跡を慕い歩いた。

「サウンド オブ ミュージック」については珍しく本家アメリカからの巡礼者も多い。いちばん賑やかなのがアメリカ人と中国人だ。アメリカ人のツアーは派手にCDを鳴らしながらやってくる。中国語の「ドレミの歌」も何度も耳にした。日本人は気恥ずかしそうにひっそりと想いにふける人が多い。こちらは民族性,国民性に依る。


ご同輩の若い韓国人カップル。



ボクたちも七人の小人たちの広場でミラベル庭園のロケ地巡りを終了。

ザルツァッハ川のほとりを散歩しながらホテルに帰る。


EOS 5D MarkⅢ + EF50mm f/1.2L USM


ドレミが何か熱心に撮っている。



ボクも初日に撮っていたがここは彼女の画像を採用しておこう。ここはヘルベルト・フォン・カラヤンの生家。カラヤンは騎士 (Ritter) の子としてこの一等地に生まれた。


EOS 5D MarkⅢ + EF50mm f/1.2L USM

折しも日曜の朝,町の人たちはみな盛装して教会へ向かう。夫人が民族衣装を装った夫婦と会釈してすれ違った。彼らは来週もまた再来週も手をつないでこの道を教会に向かうだろう。ボクたちはたぶんこの美しい街をもう二度とは訪問することがない。


トラップ邸


映画のロケ地巡りは続く。ザルツブルクのホテルをチェックアウトし町の郊外にあるヘルブルン宮殿にやって来た。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

お目当てはこちら。サウンドオブミュージックパビリオンと呼ばれるガラスのあずまや。映画の中ではトラップ邸の庭にあって重要な舞台となる。


にぎやかに歌いながらアメリカ人の団体が来た。



駐車場に「サウンドオブミュージック」のペイントを施した大型バスが停まっている。

うーむ(;^_^Aツアーでもここまで来るのか。



ボクたちはトラップ邸の門を探している。塀の色が似ているのでヘルブルン宮殿に隣接していると勘違いしていた。明らかに自分たちの探査能力を過信しての準備不足である。



庭園の周りの道を半周も歩いたところで犬の散歩をしている人にガイドブックの写真を見せた。

「ああ。こっちよ。」

英語は上手ではないがついておいでと先に立ってくれる。


「あそこよ。あそこを左に行って。」

何のことはない。駐車場からまっすぐ北に行けばよかったのに塀づたいに西に歩いたのが失敗だった。道案内を終えると犬連れの彼女はくるりと踵を返し来た道を戻って行った。途中に脇道はない。ただボクたちを案内するためにここまで歩いたのだ。


だが5分ほど歩いて不安になった。どこまで行けばあるのだろう。もう腰が悲鳴を上げている。足も痺れ始めた。



駐車場まで戻り公園で子どもを遊ばせているお父さんにもう一度確かめる。



やはりこの道を20分ほど歩いたところで間違いないらしい。ドレミはボクの腰ではもうムリだからやめようと言ったがボクは歩くことに決めた。5分歩いて2分休む。往復1時間強見れば歩ける。幸いハイキングには最高の天気である。アルプスを臨む風光明媚なこの一帯はザルツカンマーグートと呼ばれている。



すれ違った初老の二人組にも写真を見せて確認した。しるこサンドがお礼である。ちなみにこの二人,歩いて庭園まで行き,取って返してボクらを抜いて行った。ただこの道を散歩しているそうだ。



馬が歩いてきた。自転車はときどき通る。案内してくれた誰もが口を揃えた通りこの並木道は車の通行が禁止になっているらしい。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

この老夫婦もこの先だと教えてくれた。そして門が見えてきたところで立ち止まり,ボクらが追い付いて来るのを待っていた。

「さっきは10分と言ったが5分だったよ。すまん。」

そう言うためだけに待っていたのだ。


到達した。映画と変わらぬ風景があった。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM
EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

それ!もう一回ジャンプ!!


通りがかった二人連れに

「ブラボー!!」

と声をかけられ拍手をもらった。帰宅後に映画を確かめるとこんなにはジャンプしていなかった。



帰り道も休み休み慎重に歩いた。10代の女の子が草原に馬を走らせては道沿いの川に来る。



この場所は馬の水飲み場になっている。若い駿馬が心地よさそうに水の中ではしゃぐ。鳥の声が聞こえる。地上にはこんな日曜日を迎えている場所もある。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

草原

駐車場に帰り街を出てさらに南下する。ロケ地巡りの最後はボクたちらしくほとんどの人がたどり着けていない場所を目指す。冒頭に出てくる草原シーンである。手掛かりは日米二人の到達者が書いたブログとサイト。その記述や写真を参考にアプローチしていく。


場所は国境を越えたドイツ側の村である。本当のロケ当時は悪天候が続いて苦労したらしい。今日は快晴である。映画よりさらに美しい景色が広がる。車がすれ違うのがやっとの細い道が三角形に交差する一帯に入る。ターゲットは近い。




ドイツでもオーストリアでも使えるプランでレンタルしていたポータブルWi-Fiが村に入ると繋がらなくなった。国境付近ではWi-Fi会社が契約するどちらの国の4Gからも圏外になっていることが多いのだ。



もはや作戦はこれしかない。すなわち人影を見かければドレミを走らせて尋ねる。

その人影がなかなかない。見渡す限りの草原にぽつりぽつりと家がある。訪ねて行っても留守中ということが少なくない。



遠くからでもちらりと人が見えれば車を走らせて近づきドレミが飛び出してゆく。ロケ地どころか映画そのものを知らない人が多い。丁寧にお礼を言って日本から持ってきたお菓子…しるこサンド!人を見つける→車を走らせる→ドレミが走って聞く→お礼を言ってしるこサンド!…もうえんえんとその繰り返しである。



この家にトヨタのオーリスを駆ってちょうど帰宅したボクらと同年配の夫人は全く英語が通じなかった。ドレミはあきらめてドイツ語で礼を言ってしるこサンドを差し上げる。走って戻って来たドレミを乗せて狭いぎりぎりのスペースで車を返していると彼女が息を切らせて下りて来た。


表情を見れば何の用かわかる。僅かばかり手渡したしるこサンドの礼を言いたかったのだ。門前に立ち,ボクたちの車を見送っている。ボクは日本人らしく深々と頭を下げて車を出した。この一瞬の出会いだけでもボクらの旅には意味があったと思えた。茶の道には疎いがきっとこれを一期一会と言うのだろう。


村の入り口まで戻ってもう一度セットアップした。この教会も木も山も参考サイトの写真で見た記憶がある。


EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM


一度は引き返した道を先に進んでみた。目的地が近づいたことを感じた。

「ねえ,ここで撮らない?山がキレイ。」



EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM


とうとうロケ地を知っている人に出会った。庭でバーベキューの最中だった。数軒先の家の敷地だと教えてくれた。今は留守だが駐車場も借りていいと言う。



EOS 5D MarkⅢ + EF17-40mm f/4L USM

ここがオープニングのロケ地,写真左手の丘が空撮で使われた場所である。


二泊三日,子どものように映画のロケ地を訪ね歩いた。ボクはドレミをこれでもかと言うほどに満足させたかった。少女時代にあこがれていた映画の舞台…どうだった?

ボクたちの旅は続く。


↑目次へ戻る
→「INTER MISSION」へ進む