せっかく楽しげにしているドレミに崩落事故のことを話すこともないか…と考えて通過しようとすると,トンネルを抜けたところにキレイなパーキングがあったので休憩することにしました。ドレミは事故のニュースを覚えていませんでした。二人で慰霊碑に手を合わせボクは豊浜岬の突端に立つ奇岩を撮影に行きました。戻ってくるとドレミが
「あの岩は何に見えた?」
と聞きます。
海に祈るお坊さん
「シュウ,お坊さんばっかりじゃない。セタカムイ岩って言うのよ。犬の神さまっていう意味だって」
ドレミが指さす看板に虎の巻が書いてありました。
昔,ラルマキというアイヌの若い漁師が漁に出たまま嵐に遭い帰らぬ人となりました。ラルマキが可愛がっていた愛犬は,暴風雨の中を何日も浜で主人の帰りを待ちました。ある夜,村人は悲しげになく犬の遠吠えを何度も聞きます。翌朝,嵐はおさまりましたが,浜に犬の姿はなく,岬に遠吠えする犬の形の岩が忽然と立っていました。村人はラルマキの愛犬が悲しみのあまり,岩になってしまったのだと知り,その岩をセタカムイ(犬の神さま)と呼ぶようになりました。
セタカムイ岩
「タローもシュウが帰って来なかったら石になっちゃうよ。ねー,タロー,シュウが好きだもんねー」
ドレミが皮肉混じりに言います。タローは躾の厳しいドレミにはびっくりするほど従順ですが,甘やかすボクには,ドレミには見せないなつき方をして彼女を嫉妬させているのです。
まあまあ。タローは本当はドレミがいちばん好きなんだよ。
「ふーんだ。」
タローが膨れっ面のドレミをきょとんと見上げています。