May, 2002

日本旅行最後の夜.

花火には少し時期が早いけど,ボクたちはこの夜のために,家の縁側をぴかぴかに磨き,ライトも設置しておきました.

「shu.アメリカへのお土産にタキボキを買いたい.どこで売っていますか.」

ネイサンがボクに聞きました.

「タキボキ?」

昔,アメリカのとある町では,いつも道路がゴミだらけでした.ある日引っ越してきた日本人が,故郷からタキボキを取り寄せて,毎朝,道を掃きました.それを見ていた町の人たちも,ひとりまたひとりとタキボキを譲ってもらって道路を掃除するようになり,いつしか町は塵ひとつ落ちていないことで評判になりました.

「ボクの母さんが話してくれました.アメリカでは有名な話です.」

ニューヨークで,めぐみおばさん(ウイノーナの母)とこんな会話をしたことがあります.

「ネイサンはとってもいい子だと思うんだけど,ちょっとスマッグ(smog)なのよね.だから私もトム(ウイノーナの父)もときどきいらいらしちゃうの.」

smogは排気ガスのスモッグと同じで煙霧…たぶん,「にぶい」という意味なのでしょう.

「あははは.日本語で言うなら天然(ボケ)だけど,彼みたいに,いい人にしか使わない言葉ですよ.」

「そうなんだけど….」

てきぱきした性格のウイノーナが惹かれたのは,きっと霧の中にある優しさと誠実さに違いありません.二枚目の天然ナイスガイは,ボクが交互に束ねてぐるぐる巻きにしたタキボキの袋を抱えて成田空港のロビーに消えていきました.他の荷物をぼろぼろ落とすものだから,またウイノーナに叱られながら.

友よ,また会おうな.