2日朝。雨上がりの太平洋を臨む道の駅。
ようやく桜が咲きそろってきている。確かに東京より1週間は遅い。こはいかに,黒潮洗う足摺半島だぞ。
今朝は準備が長いです。ママが車を大掃除してるからです。すっかり退屈してしまった頃,やっとママがボクを呼んでくれました。わーい,いっぱい散歩だよ。あれれ?くんくん,かいだことのない動物のにおいだぞ。どっひゃー!!なんだ,こいつは。 ひひーん! おわ!吠えたー!!
初めて見る馬にびびりまくるタロー。
ぱふぱふぱふ(ボールの笛の音)! すっごいなぁ,こんな広いところに誰もいません。東京じゃなくてここに住まない?ねえ,ママ,検討してみてよ。
名前は四万十市になっても,中村の町並みは変わらない。勝手知ったる路地を曲がって,中村城址「為松公園」に登ってみたら,桜がちょうど満開。朝とはいえ,お花見広場も貸切状態である。
駅前のコンビニまで,パパが朝ごはんを買いにいきました。待ってる間,公園で遊んでいいって。きゃっほー♪
ママのあとについて登ろうとして墜落しました。
タローのお帰りなさい攻撃。
まるで1年ぶりの再会。
タローもここでごはん。
あー,おいしかったー。かきかき。 キミたちも早く食べたまえ。
地図を広げて作戦会議の結果,四万十川沿いを上っていくのは天気のよい明日にして,きょうは足摺方面の海辺で遊ぶことになった。
岬に向かう道で車酔いしてしまったタローが,なおみのひざの上にのせてもらって甘えている。ずいぶん,車に慣れてきたが,下りのぐにゃぐにゃ道に弱い。
足摺岬
落ち椿,やらせではありません(^^ゞ
人の多い観光地でもずいぶんおりこうに歩けるようになった。
なおみのマネがしたい年頃。
こんな景色を見下ろしている。
こっちも見るの?
灯台がみえます。
四国最南端のプレート…これはやらせです(笑)
岬の西に回れば竜串海岸があるのだが,きのうの吉野川を思い出すと,いたずら盛りのタローが奇岩の岩場ではしゃいだら大怪我をしかねない。そこで足摺スカイラインの途中にある唐人駄馬という遺跡に行くことにした。唐人は神様,駄馬は広場という意味らしい。世界最大のストーンサークルとも言われる唐人石という巨石群は縄文時代の遺跡である。
世界最大とはいうものの,訪れる観光客は誰もいなかった。巨石群は角張っていないし,ひとつひとつが大きいので,ここならタローが興奮することもないだろうと,リードを放すと,いきなりハイパータロー^^;
岩から岩へジャンプ!なおみの悲鳴が人気のない森に響き渡る。垂直の崖に梯子場があって,さすがにここはムリだろうと,なおみとカメラや荷物を先に上げて,タローはおぶって担ぎあげようとしたら,タローがいない。
「タロー!タロー!」
「はっ!はっ!はっ!はっ!」
という息遣いが,岩の上で心配するなおみの背後から聞こえてくる。どこをどう迂回したのか,コースの反対から現れた。
ボクたちがばてて休憩する間もはしゃぎまわっているのをじっくりと観察してみた。岩と岩のすき間をジャンプして越えようとする。その刹那,ジャンプを始めてから,着地点が遠いことに気づくと,それから急に後ろ足の蹴る力を強く調整し直しているではないか。バレーボールの時間差攻撃というか二段ジャンプというか…,犬というのは恐るべき運動神経と反射神経を持っているものだと感心してしまった。それも訓練などしたことのないふだんは鈍いくらいに見える都会の犬なのである。なおみはタローの怪我が心配で叫びつかれ,ぐったりしてしまった。きょとんとした目でタローがしっぽをふりながらなおみにじゃれつく。
中村に戻る道で「大岐の浜」という看板が目に入った。15年くらい前の夏,通りかかって,あんまりきれいだったので急遽海水浴をした海岸だ。見覚えのある草の駐車場に車を停めて,なおみが偵察に行った。
「サーファーのためにホースのついた水道が開放されてるの。」
なんてありがたいところなんだ。太っ腹土佐清水市。
うっひょ!うっひょぉ!うひょー!!
うれしすぎて足の動きが空転している。
いくよー!タロー。ふぇーっち!
「タロー来てごらん,面白いのがいるよ。」
「きゃー♪動いてるー!!」
くんくんくんくん
ぱくっ♪
むふむふむふ♪
「きゃー!!タローやめてー!!」
定番の穴掘り。
ふう。
よみがえる若き夏の日の思い出。
楽しい海遊びのあとは,きらいなシャワーが待っている。
むふむふむふむふ。
小さな川が合流するところには,たいてい天神さまかお稲荷さまがある。境内の桜が,この時期だけ遠くからも神社の存在を知らせてくれる。村は折りしも田植えのシーズン。二期作のできる高知平野である。
中村に戻って町外れで散歩する。
なおみは洗濯。
洗濯機が回っている間,近くに「トンボ公園」というのがあったので行ってみる。
旅の空に夕日が沈む。あしたはきっと晴れるだろう。
ナゾの昆虫たまご。
(外来種のタニシの卵だそうです。)
たまごの色にびびったのか,丸木橋を踏み外して泥に落ちたタローは,また,バケツで洗われて,乾くまで外につながれている。
今度は乾燥機を回している間に銭湯に行った。その名も「中村温泉」
「前に車停めてもいいですか?」
「ああ,かまわんかまわん。」
体を洗い終えて,湯につかろうとすると,ぎょえー!!湯が熱い!女湯からはなおみが水で景気よくうめている音がするが,男湯には先客がひとり浴槽の脇にあぐらをかいてもくもくと体を洗っている。仕方ないのでそのまま足を入れてみた。
「つっつぅ,ぅわっつー!」
「はっはっは。そのホースでうめんね。」
「あ^^;そうさせてもらいます。これ温泉ってホントですか?」
先客が顔の前で手をふりながら笑う。
「なーんも。名前だけ名前だけ。」
名前だけでも旅人にはうれしい。四万十市になっても中村温泉。この次また来るときにも元気で営業しててほしいな。 いつもなら休養も兼ねてそろそろ安宿でもとるタイミングだが,駐車場にタローを置いてホテルの部屋に寝ても落ち着かない気がする。迷っていたらコインランドリーに戻る途中で格好の寝場所を見つけた。四万十川沿いの河川敷にきれいなトイレのある公園ができていてあたりに民家はない。芝生にはサイクリングの旅をしているらしい先客がテントをはっている。繁華街まで少し歩くけど,これで今夜は豪華に居酒屋に行こう。
車の留守番も慣れてきました。それになんだか眠くて眠くてあんまり歩く元気がありません。そういえば,きょうも山や海で思いっきり走ったような気がします。あれ?パパとママはまたお出かけかな?どうぞ,行ってきてよ。ボク寝てるよ。
繁華街にある居酒屋の黒板に「あおさのてんぷら」というメニューがあった。それに惹かれて,引き戸を開けると,とても明るい雰囲気だった。テーブルもあいていたが,カウンター席にすわって,地物の刺身と地酒を注文した。
ごりの煮つけにあおさのてんぷら
四万十のりの味噌汁
コの字型になっているカウンター席の角で,ちょうど90度回った隣席には女の人が一人でかなりできあがっていた。常連らしく女将さんとしきりに会話している。ときどき女将さんが気を遣ってボクたちにも話しかけてくれるときに,互いに会釈など交わしていた彼女が急に
「ねえ,こちらの東京から来た若いカップルにお酒差し上げて。」
「え?」
ドラマなんかではよく見るシーンだけど,ボクたちは初めての経験だった。もう2本目で少々オーバー気味だったボクたちの前に冷酒のビンが追加された。
「すみません。いただきます。」
「どうぞ。若いのにゴリやアオサを注文するのを見てて気に入ったのよ。」
(たぶん,ボクの方が年上だと思うけれど…^^;)
「昔,妻が土佐清水港の魚屋さんで…」
「はまちください♪」(自分のセリフは自分で言うなおみ)
「…って,言って魚屋さんに…」
「清水で養殖の魚なんか売ってねえ!」(再びなおみ,下手なものまね)
「…って,叱られたことがあるんです。」
などと,ボクたちがこのへんが好きでよく中村にも来る話など始める。目と目で合図して,なおみはすっと席を立ち,夜の町を走って車まで往復した。
「これ,つまらないものですが,お酒のお礼です。」
web友へのお土産に準備したお菓子をひとつ余分に買っておいたのが役立った。為松公園の桜やあおさの調理方法で話は盛り上がり,また中村に楽しい思い出がひとつ増えた。
四万十川海老の唐揚げ
女将さんは,
「まだ,ちょっと早いから固いけど…」
と,言いながら,メニューにはない,まかないの筍の煮物を小鉢にして女の人とボクたちに出してくれた。
完全に大トラになって車に戻ったボクは,タローをたたき起こしておしっこに連れ出した。芝生に寝転ぶと,タローがじゃれつく。空は晴れて星が降るように広がっていた。