
3日の朝,快晴。
朝マックをドライブスルー。

川沿いの道で中村の町を出ると,もうそこは美しい清流の風景。数分で最初の沈下橋に着く。


のり漁だろうか。春とはいえ,川の水はまだ冷たい。
少し上流に走ると,採石工場の脇を下りたところにいくつ目かの沈下橋がかかり,対岸の菜の花が美しかった。


採石工場があるためか,たまに通りかかる観光客も,この橋には下りて来ない。

「パパぅー。ここ,気にいったー。ねえ,ここで遊んでいい?」
もとよりタローはそのつもりのようだ。


ママの放った木ぎれが意外に遠くに飛んだときだった。

菜の花の咲き乱れる清流で,ボクたちの待っていたそのときが静かに訪れた。

木ぎれを追って岸を離れるタロー


ファインダーに菜の花が揺れる。

タローの足が川底を離れた。





ぶるぶるぶるぶる
ママー!!
「泳いだのね。ねえ,タロー,今,泳いだのね。」



毛布や寝袋を川原に干した。

久しぶりに広げるスケッチブック。
「最近は水がずいぶん汚れてきたよ。」
通りかかった軽トラックから地元の人が声をかける。それを見たタローが尻尾を振りながら,一直線に川から向かってきた。
「わわわ!タロー!よせ!ここでぶるぶるするなー!!わぁー!!」
…こうして,春の水彩画はタローとの合作になってしまった。

沈下橋(F4大)この画面ではわかりませんが,タローが散らした斑点がいっぱい^^;

「向こう岸まで散歩しよう。」


集落を歩いても自動販売機ひとつない。



ちゃっちゃかちゃっちゃか

「さあ,タロー。そろそろ行こうか。」

タローはバスタオルふきふきが大好きだ。

日差しが出て汗ばむほどだったので,車を走らせると,窓から涼しい風が気持ちよかった。
「ごめん…」
「え?」
「お菓子を持って来てたら,今の川原でもっと過ごせたのにな。」
実は前日の為松公園で,ママがやたらにポッキーだのシルベーヌだのを抱えて食べているので,
「旅のときはその土地のものを食べたりできるように,お菓子はひかえろよ。」
と,叱ってしまったのだ。
「せっかくいい川原を見つけたのに,お菓子がなくって…。タローとママが遊んでるのを見ながら,なんで昨日あんなこと言ってしまったのかと,ムネがちくちく痛んでたんだよ。」
絵を切り上げて,対岸の集落を歩き回ったのも,実はどこかにお菓子が売ってないかと探していたのだ。
「チョコならあるわよ,食べる?」
「へ?」
「やーだ。そんなことでくよくよしてたの?わたしがチョコ切らすわけないじゃない。中村のコンビニで補給したの。非常食よ,非常食」
「じ,じゃあ。」
「パパが絵を描いてるときも,本読みながらぱくぱく♪」
「…」
絶句してぽかんと開いたボクの口に大きなピーナツチョコレートが押し込まれた。
「パパ,ピーチョコすきでしょ?これ,でんろくじゃないのよ。ライスチョコの会社なんだけど,おいしいでしょ。小さな工場でもこういうものはあなどれないよね。」
あなどれないのはママだ。

清流沿いに豊かな田園風景が続く。

名も知れぬ小さな小さな神社の石段を登ってみると

春紅葉が桜と艶を競っていたりする。

中流に江川崎という町があって,国道にはスーパーマーケットもあった。
前夜,居酒屋の女将が,「美味しいあおさのりを手に入れるなら,お土産屋さんよりスーパーの方がずっと安くて質がよい」と教えてくれたが,今朝出るとき,中村のスーパーは早すぎて開いていなかった。江川崎で立ち寄ったスーパーで,ボクが袋に入ったつやつやのあおさを見つけると,ママは籠にあった6個を買い占めてなお,「まだ,あと8個ほしい」と,店員さんに詰め寄った。根負けした店員さんが裏の倉庫で袋詰めしてきてくれるという。

ボクとタローは東京でも店の外で待つのには慣れている。

ようやくママが大きな袋をたくさん提げて出てきた。
「のりの佃煮もお土産屋さんよりずっと安かったの。みんなのお土産買えちゃった。」
…たぶん,どれかの袋にはチョコも「補給」されているのだろう。

川原に下りて,スーパーで買ったさば寿司や太巻きを広げた。



いくつか支流が分かれて水量こそ少なくなったが,水はますます澄んで透き通っている。
タローは自慢げにまた清流を泳ぐ。よほど楽しいのか,もう,木ぎれフェッチしなくても泳いでいく。
四万十町(四万十市とは別)に入ると,このまま源流まで遡って,四国カルストや石鎚山方面に北上するか,須崎に出て再び高知に向かうかの分かれ道にさしかかる。
imodeで調べると,行く手の銭湯は須崎にしかない。四万十町にはいくつか温泉があるので,ここで風呂に入ることさえできれば,北へのコースも悪くない。さっそく電話してみると,立ち寄りで800円だの1000円だのと言われた。のんびりする気ならそれもよいが,何しろタローを置いての入浴時間は二人とも正味15分をきっている。
迷うまでもなく須崎に向かうことにした。二人で1分につき100円の湯はちょっと放浪にはそぐわない。四万十町からは一昨日の夜に走った中村街道に戻ることになる。つまり,四万十川は海にとても近いこの近くを源流に,真西に流れて深々と山あいをくねったあと,90度以上進路を変えて南下し,このすぐ南にある中村で海に出ているのだ。
土讃線の小さな駅に桜が満開だった。
四万十町のスーパーで再びママがのりの佃煮を買い足したり,仁井田の駅でボクが桜を撮りに走ったりしたので,須崎に着く頃には日が沈んでしまった。
「8時半ごろには入ってくれんかなぁ」
電話に出た銭湯のおじいさんに言われていた時間ぎりぎりだ。港近くの細い路地で銭湯の小さな灯りに気づかず,行ったり来たり走って,何度も通っていた道にようやくそれを見つけた。
ママが「二人分お願いします。」と,番台にお金を払うと,おじいさんは笑顔で受け取りながら,その小さな灯りのスイッチを切った。ボクたちがこの日最後の客だった。湯からあがって車に戻り,カメラを待って戻ると,もう暖簾をしまって,鍵をかけるところだった。
「忘れ物かね?」
と,鍵をまた開けようとするおじいさんをボクはあわてて制止した。

「ちがうんです。記念に写真を撮りに…」
真っ暗な入り口に向かってストロボをたくと,おじいさんが不思議そうに首を傾げて見ていた。

銭湯をさがしているとき,提灯に照らされた桜並木の小さな川に石の眼鏡橋がかかっているのを見つけていた。看板には「桜まつり」と書いてある。銭湯が8時半にしまってしまう町なので,灯りが消えていないか心配だったが,どうにか間に合った。


提灯が美しい光をかわもに落としているが,人は誰もいなかった。
須崎の道の駅は町外れのバイパスだったが,高知道の終点にあたるためか,長距離トラックがたくさん停まって仮眠している。ここならボクたちも隣に泊まって迷惑にはならないだろう。
道の駅から歩いて5分もしないところに,西国でよく見かけるファミレスがあった。せっかく港町なのでほかにチョイスがなかったわけではないが,「濃い」食べ物は昼のさば寿司で打ち止め気味,もう,ハンバーグとスープが恋しくなっているボクだった。ママのチョコを笑えない。
20年近くも夫婦をしているので,下手をすると一年中,毎日が何かの記念日になってしまいかねない。そこで記念日の制定には慎重な話し合いが必要だ。
でも,本日は満場一致。

4月3日。
タローの初泳ぎ記念日に乾杯♪