バイオリンの伴奏をS香とM奈にさせようと考えたなおみ。彼女たちにも演奏できる曲となると手持ちの楽譜がないとなおみが言い出した。さて、何でも便利な新宿だが、唯一、音楽では三流都市だ。クラシックの楽譜や弦は銀座か秋葉原まで行かないと手に入らない。出勤のついでに寄ればよさそうなものだが、なかなかその時間がとれない。
そこでネットを検索してみると、ほとんどの楽譜を注文することができるし、内容の見本もWEB上で確かめられることがわかった。さっそく何冊か注文するなおみ。
「古本も捜してみたら?」
「ふふっ。楽譜の古本はないわよ。ほら」
なおみの楽譜を見ると、なるほど。五線の余白にはびっちりと鉛筆で書き込みがしてある。練習のとき、注意事項や自分なりの速さや強弱などを書き込んでいくので、古本にはならないそうだ。
「このころ、こんなの弾けてたんだ。字が幼ーい」
変色してあちこちテープで補修してある古い楽譜には、ボクと出会う以前の少女時代の書き込みがあった。
字は今とあまり変わらない。