OUR DAYS2008年2008/3/7

「教室ではときには怒声を発さねばならないときがある。もはや感情に任せて怒るなどということは遠の昔、最近はほとんど演技に近い。ときには今度、あのクラスちょっと引き締めないとなどと、計画性を持って、子どもが叱られても仕方ないと理解できるシチュエーションを待っていたりする。感情がコントロールされているだけに、いっそうド迫力で我ながら怖い。

困ったことにはタローである。事務室のハウスに居ればよいものを、必ずオロオロと出てきて、ボクのいない方の教室に逃げ込み、隅っこに突っ込んでガタガタ震えている。叱りついでに、隣の教室にも効果が及ぶよう声を荒らげるものだから、壁越しに雷声がタローの背後から襲いかかるのだ。なおみが懸命に慰める。

最近は怒声でもないのに、ボクの大声には敏感になってしまって、家で耳の遠い父などに、つい大きな声で話したりすると、もう怯えていたりする。

先だって、サッカーをビデオ観戦してたときの話。しばらく何か楽しいことでもあるのかと、脇にいたタローはいつの間にか寝室に引っ込んでいたらしい。なおみもお風呂の準備か何かでテレビの前を離れているときだった。日本代表のゴールに興奮したボクは、ハグする相手を求めて

「タロー!カム!」

と思わず鋭い語気で叫んでしまった。驚いたのはうつらうつらしていたタローである。飛び起きるなり、一直線に走ってきたが、あまりの恐ろしさに腰が抜けたらしい。寝ぼけてもいたのだろう、ハグしようとするボクの前でずるりとへたり込み、バンバンと折れるかと思うほど、尻尾を床に打ちつけて振る。愛想笑いをしようとする顔は引きつっている。

01

なおみが慌てて駆けつけたときには、ぶるぶる震える腹の下から熱い液体が床に広がってきた。

「まあ、かわいそうに、よしよし、こわかったでしょう。シュウ!何てことするのよ!かわいそうじゃない!」

…そ、そんなあ。何もしてないよ。ただ、呼んだだけなのにぃ。


タロー、男の子だろ?その弱虫、何とかしろよぉ。

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