高速割引制度により大渋滞が予測されている連休。報道にびびって先週早々に連休中は家に隠ることを決めた矢先,小田原の友人クマさんから毎春恒例夏みかん狩りのお誘い電話があった。
「おぼっちゃま(タロー),思いっきり放せますよ。」
ボクたちはタローフリーに弱い。知り合いの農家のみかん山なので広い斜面には他に誰もいないのだ。もう,お弁当なんか作っちゃっていそいそと出掛けちゃいました,朝4時半起き。
さてクマさんにはヨッシーという人懐っこくて可愛い娘さんがいる。クマさんと知り合った頃は赤ちゃんだったのが,もう小4になっていて,会うたび時の流れの速さを思い知らされる。ヨッシーはかたぐるまとお絵描き,それにカメラに向かってポーズするのが大好きなので,なおみより条件の揃ったボクになついている。
この日も,夏みかんをもいでは
「シュウさん,撮ってー」
花を摘んでは
「シュウさん,撮ってー」
と走ってきてポーズする。おまけに今年は去年まで赤ちゃんだった妹のサトちゃんまでがモデルを争う。結局,彼女たちだけで8GBもシャッターを切らされた。
これで9年分,ヨッシーだけで写真集ができるほど彼女を撮ってきた。
「はい,これシュウさんにあげる。」
摘んできた花はみんなボクとなおみにくれる。たいてい,みかんやカメラでボクの手がいっぱいなので,
「ポケットに入れてあげるね。」
と,ジーンズのポケットに次々と花をつっこむ。歩くときはいつも手をつなぐ。いつかヨッシーの結婚式の日が来たら,クマさんよりボクが号泣するだろうとみんなが笑う。
いよいよドンゴロスにつめた夏みかんを車まで運ぶ。去年は途中で腰が抜けて醜態を見せた大仕事だ。今年は体調も腰の具合もよい。いちばん重そうな袋をえいやと担ぎ上げた。
「ぬわあああ!!」
サトちゃんが袋を支える。ヨッシーが心配そうに横を歩きながら言う。
「サンタさんみたい。」
「ちぇええい!サンタシュウと呼べ。」
「ねえ,サンタシュウ♪」
「ん?」
「ヨッシーの願い聞いてくれる?…」
ぴたりと体を寄せる。
「…次はいちばん軽い袋にして欲しいの♪お・ね・が・い。」
「ヨッシー,いったい,誰がそんな話し方教えたんだ?」
「なおみちゃん♪」
彼女のお願いを聞き入れ2回目は軽い袋にしたが,すでに筋肉が笑っていて,途中で何度かしゃがみこみながら運んだ。もちろん,翌日いっぱい筋肉痛に苦しんだことは言うまでもない。クマさんと中1になった次男のタカはその間に軽々と数袋を運んでいた。
渋滞を避けて,早めに東京に向かった高速のPAで,ポケットがなんだかごわごわすると思ったら,中から萎びたシロツメクサやマーガレットの花がどっさり出てきた。