OUR DAYS2015年2015/1/15氷雨

東京ドームのチケットを頂いた。野球ではなく,

「日本のまつり!!ふるさと東京大会」

…みたいなイベントである。

ふだんのボクなら縄を打たれてひきずられたとしても決して行かないところだが,仕事関係で頂いたのでそうはいかない。各地の味の名店も合わせて出店を出しているらしいので,チケットのお礼に粋なお土産など調えたいところである。なおみだけを行かせる手もあった。…が,チケットに印刷されているねぶたや竿灯祭りの写真に心ひかれた。これらの祭りを今生のうちに訪ねる可能性はもっとない。ドームならけっこう迫力で撮れるのではないだろうか…お馬鹿な悪魔がささやいた。

こうしてボクたちは雪混じりの氷雨の午前中を選び,いったん職場に行ってタローを置いてから地下鉄でドームに向かった。雪のために少しでも人出が少ないことを期待していた。

ところが…


うわー!!なんじゃこりゃあ!!

わーい!shu!!早く早く!」

のわー!!ま,待て!!待ってくれ!!


ボクがこの道を進めたのは10メートルほどである。命のキケンを感じて横道にまろび入り,外野スタンドに設置された「休憩所」を見つけた。パイプで組まれた特設階段を這うように登ってベンチにへたりこんだ。

「もう,びっくりしたなぁ,呼んでも止まらないから。」

なおみが息を弾ませながら着いてきていた。

「まあ,シュウにはムリか」

す,すまん。お前だけでも楽しんできてくれ。


会場の隅のステージで「竿灯まつり」がショボく行われているのが遠望できる。どこが「日本の祭り~ふるさと東京大会」だ。完全に主は「全国食べ物出店大会」で「祭り」はおまけである。近づきたいが,出店の横丁を突破しなければたどり着けない。おまけにステージ前のスタンドは別料金らしい。


「ひゃー!!列が長くなっちゃって,有名な丼とかもうムリそうよ。お土産だけとりあえず並んで買った。」

なおみが休憩スタンドに登ってきた。


「はい,イクラウニ丼はゲットしてきた♪」

うーん,ありがとう。お♪ウマいなあ,これ!!…義理もあるがわざわざ氷雨の中を来たのだから,なおみだけでも楽しんでくれてるのがせめてもの救いだ。気分に水を差さないようにことさらはしゃいでみせる。

だが,小さな容器にこれだけで800円,決して安くない。この何千人だか何万人だかわからない人たちも,高い入場料を払って,さらに高価な有名店の出店で食べ歩きしているのだ。氷雨の,平日午前中に…。ボクには全く実感がないが,日本はやはりとても裕福で平和のようだ。

ふたたび,なおみが外野スタンドに登ってきた。


「じゃーん!人気の二品ゲーット!!」

おほー!!珍しいなあ,これ。うーん!!ウマイ!!…なんかにぎやかでいいねえ。心にもないことはなおみにもバレている。

実はこの日,腰痛から右足が痺れる症状があり,それもあって,がんばっても人ごみに突入することができないでいた。出掛けにいやな予感がしたので,5Dをやめて,ミラーレスにしたのが正解だった。もし,5Dに白レンズを担いでこのスタンドを登っていたら救急搬送されていたかもしれない(笑)


「ひゃー,疲れた。かにミソ丼!!これでおしまいにしましょ♪」



ボクはかにミソ丼をほおばって,ジャケットやかばんをキチンと直し,カメラを袈裟懸けにして気合を入れた。出口は反対側にある。どうしたって,一回はこの雑踏を突破しないと帰れないのだ。

「よし!!行くぞ!」

寄り添ってきたなおみの肩につかまり,ボクは決然と歩き出した。

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