OUR DAYS2015年2015/1/18晴れ

母にタローを預けて出勤した日曜日。補習を終えた足で,秋葉原からJR湘南ラインに飛び乗った。窓外を染める美しい夕暮れの中を南へ向かう。去年,ひょんなことから知り合った大船に住む若者がボクたちを夕食に招待してくれたのである。彼は中国残留孤児の二世で,幼い頃は日本人だと知らずに育っていたそうだ。まこと礼儀正しい若者で,夏にはかわいい奥さんを連れ,東京にもしらべ荘にも遊びに来た。奥さんは中国人だが,少なくともほとんどの日本の若者よりキレイな日本語を使う。何より小気味よいほど頭がよく回るので一緒にいて少しも疲れない。


天才料理のお礼に,今度はその奥さんが得意の餃子を是非ごちそうしたいから一度遊びにきてほしいとずっと誘われていた。ボクたちの日曜が休みになるのを待っていたら,いったいいつになるかわかったものではないので,ムリを言って補習のあとに訪ねることにした。

心づくしの肉料理や野菜料理のあと,いよいよメインディッシュの水餃子。


「ホントは薄力粉がいいのですが,財政上の問題で,ウチでは中力粉を使っていまして…」

彼が照れながら言った。つましく,しっかりと生活しているが,それを楽しんでいるところがなきにしもあらず。ちょっとママゴトっぽいところもあって,まことにほほえましい。

そうしてふだんは節約しているけれど,二人の休みが合えば,ぽーんと遠い国に旅に行く。それもUボートの博物館をドイツに訪ねるとか,フィンランドの田舎町に一週間滞在して,オーロラが出るのを待つとか,ボクたち好みのディープな旅をする。


子どもがいないせいもあってか,ボクたちの若い頃にとてもよく似ている気がする。


旅のアルバム…ボクたちもこういうのをいっぱい作ったもんだ。


餃子作りに参加する。

あんまり美味しかったので,しっかりレシピを聞いた上,皮を作る麺棒に,麻婆豆腐に使った珍しい豆板醤までちゃっかりもらった。天才クッカーのメニューがまた増えた(笑)

さて上機嫌,酔っ払いの帰り道,大船で湘南新宿ラインが来るのを待っているホームに,一本前らしき列車が入ってきた。電車に慣れないボクは,迷わずホームの端にいた駅員のところに走って行って尋ねた。

「ああ,湘南ラインならこの次ですよ。」

礼を言って,二人でベンチに座ったのも束の間,停まっている列車の車掌が今度はホーム中ほどにあるボクたちが座っているベンチに向かって猛然と走ってくる。

「新宿ですかー!!」

あ,は,はい。

「これに乗ってください。戸塚で乗り換えると待ち時間が少なくてすみます。はあはあ。」

ど,ども!!

たんたんたったったたたーん♪

発車のベルに追われるように,車掌はまた最後尾に駆けてゆく。戸塚駅で下りてすぐ,ボクははるか最後尾の車掌に向かって深々とお辞儀して謝意を表した。


すると,今度は走り去る車両の窓から車掌が大声で言った。

「同じこのホームで待っててください。すぐに来ます。」

…なんとなく,JRが国電だった頃にはこんな経験をときどきしたような気がする。


ボクたち二人はとてもいい気持ちで,ときどき居眠りしながら新宿まで帰った。


「ねえ,まだイルミネーション点いてるから,サザンテラスを散歩していこうか。」

真冬の夜中,11時を過ぎているというのになおみがそう言った。


それくらいごきげんな夜もある。

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