OUR DAYS2016年2016/8/1

自覚症状は1年前からあった。視力が急に落ちて,乱視がひどくなった。違和感もあったが,レーシックの後遺症によくあるドライアイだと思っていた。何より,鋭い痛みと痺れを伴う腰痛のプライオリティが高かった。目の方は免許の更新までに何とかすればよいと。

それが先週末から左目の下の方に影が映り始めた。月曜には視野の三分の一程度に広がって来た。これはいかんと,今日の出勤前,あの早稲田の女医を受診した。明日から合宿なので,帰ったらすぐに治療に入ってもらおうと思ってのことだ。

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「網膜剥離です,すぐに手術が必要です。」

女医は淡々と言った。手術専門のクリニックに電話し,

「そこを何とかしなさい!!」


…と強引に交渉して明日の手術に割り込みの予約を取ってくれた。どうやら「明日は仕事を休めない」などと言う余地は全くなさそうであった。書いてもらった紹介状を手に,その足で患者であふれるクリニックの門をたたいた。次々と検査を受けながら,なおみとlineで連絡を取る。

合宿の準備はなおみが主導して数か月前から始まっている。予算的にもボクが大型バスを運転するという前提で成立しているし,そもそも,ボクがサル山の大将よろしく受験生たちに君臨して,マインドコントロール下に置くことが主たる目的である。「ついて来い!!」と先頭でひっぱっていく必要がある。そのボクがいないのでは中止が妥当だ。子どもたちはとてもがっかりするだろうが,もともと実費しかもらっていないほぼサービスイベントなので,返金しても経営にダメージはない。だが…

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あっぱれ,これがボクの愛する妻である。

二人でもいっぱいいっぱいのイベントを果たしてなおみ一人でやれるのか。そして肝心のボスザル不在で意味があるだろうか。

バスのレンタカーのキャンセル。宿との相談。電車の乗り継ぎ調べ,アルバイトの手配…長い長い診察と検査を受けている間に,なおみが授業しながら一人で手配した。手術を心配する母もなおみ自身で説得した。

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彼女は子どもたちへの愛情と仕事への情熱がボクよりずっと深い。結局,タローと荷物と数人の生徒はなおみが車で,残りを卒業生アルバイトのタツキが在来線で引率して決行することに決めた。越後湯沢の駅からは宿が送迎バスを出してくれる。

一方,ボクの手術。もう少し遅かったら失明だったと言われた。術後,どれくらいで回復するか個人差があるが,少なくとも一週間は安静とのこと。場合によっては視力が回復するのに1か月かかる場合もあるようだ。経過が良好ならば,新幹線で合宿に合流しようなどという甘い考えは論外のようだ。

手術は日帰りだが,割り込みなので時間が遅く帰りは地下鉄のラッシュ時間になる。眼帯をして顔をあげずに歩かなくてはならないので危険らしい。その上,翌早朝に術後受診にも行かなくてはならない。

手術の説明をする職員が問診票を見ながら哀れむように確認する。

「奥さまは付き添いに来られないんですね。」

ボクは胸を張って答えた。

「すみません。一人で帰ります。ご迷惑はかけません。」

二人に予期しなかった試練の夏が来た。タローも雰囲気を察したか,それとも夜中の雷鳴が怖かったのか,少々お腹がゆるい。試練と言うよりピンチかもしれない。

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