母からサマーチェリーの花束がどっさりと送られてきた。
もちろんひとつはなおみ宛でオフィスのカウンターに飾った。他には配達リストと手紙が添えられている。その中に,ミネギシ老師の名もあった。たいていの届け先にはボクが家の前まで運転して,なおみが花を持って玄関に走ったが,老師の許にはなんとしてもボクが行かなければならない。
医院の急な階段を一段ずつ上がり,受付で
イマムラです!!母から届け物です!
と叫びながら笑ってしまった。これでは子どものお使いである。激しい風雨の日で,患者が少なく,老師は玄関まで出てきてくださった。
「おお!どうだ!」
まだ歩けません。でも術後経過は順調だそうです。
「待ってろ」
老師はいったん診察室に入り,患者に「ちょっと待ってて」と声をかけ,電極やら針やら消毒薬やらを持って出てきた。
「これ持って」
電極をボクの左手に渡す。痛いと言ったので,玄関先で治療してくれようというのだ。耳たぶの内側にいつもの磁石を貼り付けてくれた。
「どうだ」
は!効きました。ほらっ!
玄関で足踏みしてみせる。実は学部長に処方された薬の量が倍になってから、多少ふらついたり眠くなったりするが、痛みは心なしか緩和された。サマーチェリーと寒天と手紙を手渡す。
「ときどき,ぐりぐりしなさい。」
耳たぶの磁石を揉んでくれる。
ボクはきっと治るのだ。