あのトクハシっていうヒト…雑誌に載ってたよ。ここの教授。ネットでも評判だった。」
電光掲示板に表示された学部長の名前を見て、待合いのソファで隣に座った初老の男が付き添いの奥さんに説明している。
やっぱりそうなんだ。
とボクはひとりごちる。いつもと同じ時間に家を出て特に道路が空いていたわけでもないのに整形の受付開始前に着いた。果たして診察が始まると教授の名前の欄の先頭にボクの番号が表示された。
おはようございます。実はハガキには調子のいいこと書いたのですが2回目の注射はイマイチでした。
「そうか。注射も薬も最初が一番効くんだよ。とにかく黙って5回射つんだ。」
5週連続射ってみる…確かに学部長は最初からそう言っていた。1回目の劇的効果にはしゃいでいたのはボクだけだ。彼は冷静だった。この病気、注射一本であ〜ら不思議と治ってしまうほど甘くないと彼は当然知っている。それでも「ここかここか」と探りながら1回目と同じ場所に3回目を射ってくれた。そして電子カルテに人差し指入力で
「2回目はイマイチ」
と読み上げながら打ち込んでいる。とにかくこの人のためにここで全快したいと強く思いながら病院を後にした。3回目も効果の方はイマイチだった。