OUR DAYS2017年2017/12/14

検査入院していたタローを母と偶然来ていた弟が迎えに行ったのが18時過ぎ。ドクターから深刻な病状と絶対安静を伝えられ帰宅したのは19時前だった。

 偶然,母がなおみに報告しようとアイフォンで撮った写真がライブフォトになっていて尻尾をぶんぶん降りながら弟に連れられて嬉しそうに帰宅したタローの姿が短い動画にも記録されている。これが生前のタローの最後の写真となった。タローは胸水を抜いてもらってとても楽になっていたのだと思う。帰り道で快便し,部屋に飛び込むなりマロンの残していた餌を平らげて水を飲んだ。そして自分の餌台に残っていた水もうまそうに飲み干すときわめて珍しいことにキッチンで小の粗相をした。

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慌てたのは母と弟だ。絶対安静の上にドクターから飲料水制限を言い渡されている。LINEに「水はまだ一滴も飲ませていないこと」「なおみが帰宅するまで我慢させること」「粗相したこと」などを写真と一緒に次々とアップした。その一連の騒ぎをボクが読んだのは9時半。ちょうど授業は終わっても,暫くは質問を受けたり,再テストをさせたり,まだ終業まで30分以上はかかるときだった。が,ボクはなおみを電車で先に帰すことにした。実は水を飲んでいたということを知らないボクは,病院から帰って喉が渇いているであろうタローが不憫だったのでなおみを早く帰して水を飲ませてやろうと思っての指示だった。結果的にはこれがなおみを死に目に合わせることにつながった。

「なおみちゃん,きっとじれて今頃地下鉄の中で走ってるよ。」

母はそうタローに話しかけながらも,タローに押し切られて,弟と二人またこっそり少しの水を与えていた。病気で喉が渇くタローが必死の「イマムラタローくん」(お座りして片手を挙げる芸)をすれば拒絶するのは難しい。苦しそうなタローに最後の水を与えてくれた二人にはとても感謝している。このあとタローは疲れたのかハウスに行って横になった。なおみが到着したのは10時30分。ダイニングで弟や母にお礼を言ってから別室のタローをハグした。タローは立ち上がったが尻尾をぶんぶんしてむしゃぶりつく元気はもうなかった。なおみがダイニングキッチンに戻り,ドクターの注意事項などを弟から聞き,再び部屋に行ったときタローはもう息をしていなかった。声も上げなかったそうだ。ボクの推測だが胸水を一気に抜いたことが心臓にかかる圧力を急激に変化させて心筋梗塞をひきおこしたのではないだろうか。なおみの絶叫が夜を切り裂いた。

ボクが仕事を終えて教室を出たのはちょうどその頃だった。向かったのは家ではない。流星群を撮影に若洲公園に行ったのだ。腰が痛かったり,病気のタローを連れて行くのが心配だったりでなかなか行けなかったのがちょうど極大日に一人になった。写真や動画で元気なタローの姿も確認している。海の堤防にカメラのセッティングを終え,30秒ごとの連続シャッターを設定して堤防の上に寝転んだのが10時55分頃。着ぶくれた上にカイロだらけで少しも寒くは感じなかった。シリウスが明るかった。我が教室ではこの星座をおおいぬ座と呼ばずタロー座と教えている。取り出したiPadに弟から着信があった。駐車場に向かう足がふわふわとして地面を踏む実感がなかった。静かに車を出し,速度超過しないよう慎重に車を走らせた。ゲートブリッジを渡るとき,三度声を限りにタローの名を呼んだ。

「あ♪パパ」

と返事が聞こえた気がした。


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