低く柔らかい声で「たぁろ」,弾むように「たろたん」,高い声で「たぁろぉー」
優しく話しかけるとき,楽しく話すとき,少し不満げに…何度も何度も抱きついては話しかける。
不満げなことにも一理はある。
「どうしてせめて半年は介護させてくれなかったかなぁ。」
そう言って泣き崩れる。
タローが死んだ日の午前中,ボクたちは介護計画を相談した。車を以前使っていた旧型スパイクに買い替えて後部座席を跳ね上げてタローのベッドにする。二人でタローを運ぶのにもっこが必要だが専用のものは窮屈なのに高価だから,荷運び用のもっこを買って来てそれにマットやクッションを取り付けて自作する。介護帯は腰痛で役に立たないボクに代わって当面なおみの身長に合わせたものを買うなどなど。そしてタローとボクたち,どちらもお互いに納得できるまで全力を尽くして,それから逝って欲しかったと言うのがなおみが高い方の「たぁろぉー」で語りかける不満である。
悲嘆にくれるなおみを見て
「ピンピンコロリも考えものだね」
と母がしみじみと言う。自分もマロンも「ピンピンコロリ」が理想だと思っていたが,残される家族には果たしてそれは理想だろうかと考える。心残りのないよう介護の期間とある程度の世話はかけることも必要なのではないかと。
タローは介護が始まるという日の前夜に心臓発作を起こして死んでしまった。ボクらの心は宙を彷徨っている。