OUR DAYS2017年2017/12/14

3年生のみなさん,ちょっと聞いてほしい。知ってる人もいると思うけど,ゆうべ10時半頃にタローが死んだ。心臓の発作でほとんど苦しむことなく眠るように逝ってしまった。

なおみ先生がまだ高校生のとき,結婚したら子どもをたくさん産みたいと言ったんだ。よし,じゃあバスケのチームができるくらい6人作ろうとオレは答えた。それから結婚してすぐに子供を作ろうとしたけどなおみ先生は持っている卵の具合があまりよくなくて,受精,着床してもなかなか細胞分裂が始まらずに流産してしまうことが続いた。今なら違うんだろうけど,当時の不妊治療は肉体的にも経済的にもタイヘンなことだったんだ。試験管受精にも何度か挑戦したけど,とくになおみ先生の体の負担は大きかった。半年ほどでこれはいけないと感じたオレは「不妊治療をやめて赤ちゃんを諦めよう,そしてその代わりに大きな犬を飼おう」と言った。なおみ先生は1時間くらい泣き続けたあと「犬の名まえはタローね」と言ったんだ。

仕事もがんばって色々環境も整えて犬を飼えるようになるまでに10年くらいかかった。オレたちは都内はもちろん遠く伊豆半島までタローを探しに行った。そして千葉県にあるブリーダーのところで,Booという名の大人しくてとても賢いゴールデンに出会った。品評会を始め色々な賞をもらっていたBooはその店の看板チャンピオン犬で,そのときちょうど子どもが生まれる予定日の1週間前だった。タローもお父さんもちょっと不細工だけど,タローのお母さんはとても美人…いや美犬か…だったよ。ボクとなおみ先生はBooとお母さん,確かキャンディという名まえだったかな…の長男を予約した。だからタローは生まれる前からタローだった。そして6人の子どもの代わりになおみ先生の子どもになる運命を持って生まれてきた。

そういうわけでタローはただの愛犬ではなくオレたちにとって特別な存在だったんだ。24時間いっしょに暮していた。今夜も…なおみ先生はタローの傍で泣いている。だから…すまんが今日の英語の授業はない。その代わりオレが地獄のぶっ通し数学をやる!文句ないな(笑)

最後に…みんなオレたちのタローを可愛がってくれてありがとう。タロー係だったタイガとタツキ,ありがとう。以上,授業に入る。宿題出せー!!

ボクたちの教室では最後の中3夏にある合宿のクイズ大会で,初めてボクたちが結婚していることをばらす。だから小さい子たちは夫婦だとは思っていない。理由はない。ただ,中3で初めてそれを教えたときの子どもたちの驚く反応が楽しくて演技を続けている。さすがに12年前,タローを教室に連れて行くようになったときはバレてしまうかと思ったのだが,子どもたちはタローはなおみ先生の犬で,シュウ先生が送ってくると信じて疑わなかったから面白い。タローもタローで子どもたちの前では子どもたちと同じようにボクを怖がって優しいなおみ先生にべったりとついて回っていた。…思えば演技派であった。

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