28/金華堂に行く


March 17th/2021

緊急事態宣言中のある日,チェロのレッスンに行くドレミを文京区西方まで送って来た。ふだんは逆に先生が月に一度ボクたちの職場まで来てくださっていたが,感染防止のため当面出張レッスンが自粛になってしまったからだ。


さてボクはドレミがレッスンを受けている一時間あまりの時間をつぶさなければならないのでツーリングの予定を立ててきた。幸い初夏のような陽気の快晴である。車をパーキングに停めて積んできたジャイアントを下ろした。



勘を頼りに南下すると菊坂下という交差点に出た。いきなりけっこうな上り坂である。

「上野の山(標高24M)」と言う。江戸府内は平坦に思われるが実はけっこうな起伏がある。上野から本郷にかけては「丘」以上「山」以下の地形となっている。



本郷3丁目の交差点(標高32M)

春日通りを本郷から東に向かって下る。



上野広小路 ところでチェロは20年ほど前にボクが弾こうと購入した楽器である。練習再開にあたって先生に直接教わるより,まずドレミが習ってそれをボクに教えた方が効率が良いだろうということになった。


インターネットの紹介サイトで指名した30代後半の先生はレッスンの約束を2度すっぽかしてそのまま連絡不通になってしまった。恐縮した担当者がイチオシで紹介してくれたのが今のY先生である。20代前半だがどうしてどうしてタイヘンな技量と指導力の持ち主だった。

「音が長方形になる。」

などとおっしゃる。ドレミはめきめきと腕を上げ,ボクをさしおき自分がすっかりチェロにはまってしました。 昭和通りを二段階右折すると間もなくツーリングの目的地が見えた。



上野金華堂。ここのイタチ毛の面相筆が水彩画によいと密かに評判なのである。


開店したばかりで忙しそうな店員に聞くまでもなくオリジナル面相筆はすぐに見つかった。そもそも探すほど広い店内ではない。隣に陳列されている一回り太い版下筆も気になる。こちらはイタチ100%ではないようだが値段は変わらない。



しゃがみこんで長考するうちに初老の女性客が来店し,いきなり店員に尋ね始めた。絵手紙が趣味でやはり面相筆を買いたいと言っているのが聞こえる。店主らしき男が彼女を水彩筆の棚に連れて行き,480円のレンブラントの細筆を薦めた。女性はその安い化学繊維の筆を購入し,ご満悦で帰って行かれた。


ふうむ(;^_^A…客を見ている。ボクも恐る恐る相談してみた。どうやら安レンブラント扱いは免れたようである。店主はにやりと含みのある笑顔を見せながら言った。

「版下筆の方が水の含みがいいですよ。」

さてイタチの面相筆を扱う技量はないと値踏みされたかそれともこちらの相談を理解してもらえたのか…。


現在,細部にはラファエルの細筆を使っている。コリンスキー100%で申し分のない描き味だが如何せん2タッチほどで絵の具が枯れるのでパレットとの行き来が忙しすぎる。ボクが求めていたのは水をよく含む細筆であった。


店主の薦め通りに版下筆を買った。いい筆を買ったからといって絵が上手になるわけではもちろんない。が,今風に言えば気持ちは「アガ」る。 想定外に時間を使ったので来た道を急ぎ引き返した。春日通りが天神下の交差点から急にきつい上り坂になる。


こーこはどーこの細道じゃ♪天神様のさまの細道じゃ♪ 湯島天神の坂は「通りゃんせ」標高差15M,平均勾配4.3%であった。



天神坂で大汗をかいたのでウインドブレーカーを脱いで腰に巻こうと自転車を停めた。美しい女性の銅像が目についた。


春日局墓所・麟祥院

30年あまり前に大原麗子さん主演で放映された大河ドラマ「春日局」にタイアップして文京区が近くの公園に建てた像らしい。顔がキレイな道理である。2年前,公園から墓所であるこの地に移設されたというから,よく車で前を通っていても知らなかった。


春日局の父は明智光秀の重臣斎藤利三である。春日通りの名も彼女に由来している。昨年の大河「麒麟がくる」では,母方の祖父稲葉良通はひどい悪役として描かれていた。



坂道に加え,銅像発見によってドレミのお迎えはギリギリになった。 Y先生の家はバイオリニストのお母さんが経営する大きな音楽教室だった。芸大からも東大からも間近なこの場所で教室を続けているということは相当な腕前であろう。なるほど,Y先生はサラブレットであったことか。