OUR DAYS 2018年2018/1/1

元日の朝目覚めるとなおみが枕に顔を押し付けてむせび泣いていた。

ボクたちは仕事でもプライベートでも誰かと一緒なら元気になっている。しかし二人きりになると時間はあの日止まったままだ。年始になど行く気分ではなかったがニューヨークから伯母が来てなおみに会いたがっているというので町田にだけは行くことにした。寝不足のために車に乗るとなおみは直ぐに寝てしまう。だから東名高速からくっきりと富士山が銀嶺を見せていたのを知らない。減速して青葉インターを出る加重変化に目覚めると

「キレイな空。富士山が見えるかもしれないわね。」

と言って笑った。まだ寝ぼけていたのだろうそれは久しぶりで見たなおみの本当の笑顔だった。ボクは青空に心から感謝した。

夜はニューイヤーコンサートの中継に間に合うように帰った。母は弟の家の新年会に出かけていた。イタリア人指揮者の選んだ曲がお気に入りの曲ばかりだったのでなおみがまた嬉しそうにした。ウイーンの森の物語をうっとりと聴いていた。拍手はどちらからともなく自粛したがラデツキー行進曲の間も笑顔だった。音楽は少しずつなおみの心を癒すだろう。

せめて今夜は彼女に安らかな夜を。そして願わくばタローと逢える楽しい初夢を。

■犬を飼うなら…

犬を飼うならゴールデンはやめた方がいい。

誰かに聞かれる毎に嘯いて来た。例えば調子に乗って人間の食べ物を欲しがり過ぎて叱られたとする。母の飼っている柴犬のマロン(タローより一段賢い)ならツンとスネることもあるだろう。その仕草はとても愛らしい。…があくまでもそれは犬らしいかわいさである。タローはスネた「フリ」をした。あるいはガックリと肩を落としてトボトボハウスに帰って行く「演技」をする。死角に入るとケロッと振り向き、そおっとこちらの様子を伺う。目が合うと明らかに「バレたかでへへヘ」的な顔で戻って来ては「ちょうだいよ」と手を挙げる。

そんなときボクはホントに嫌な予感がしたものだ。人間臭すぎる。この子を喪ったらどうなるのだろうかと。いざその時が来たりて何をか言わんや。胸が痛い。心が張り裂ける。…犬を飼うならゴールデンはやめた方がいい。

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