OUR DAYS 2018年2018/1/10

ボクは今日も眼科を受診し、来週にも簡単な手術をして眼に溜まった血を除去することになった。

18011001m.jpg

なおみはもっと深刻かもしれない。蕎麦屋で待つ間になおみがクロスワードパズルをカバンから出してきた。これは異常事態である。なおみは中毒と言っていいほどの本の虫である。こうしたときには寸暇を惜しんで小説を読んでいた。それが

「本は読んでいても意味が頭に入って来ない。」

それでパズルの雑誌を買ったと言う。最近、どこかで聞いたことばだった。そう、マリコが自ら語った精神を病んだときの話だ。

なおみの場合は仕事が忙しいので元気そうだし食欲もある。子どもたちの前でもとても明るく振舞っている。が、二人っきりでいると15分に一度は泣き出す。精神的にはけっこう危ないところにいるのかもしれない。

■ボクたちはこれから秋を生きようと思うのです。

タローを飼う前に二人で過ごした18年が春だったとすれば,タローのいた12年間…突然終わってしまった幸福な日々はボクたちの人生の夏でした。いつでもどこでも三人一緒に満喫していためくるめくような時間はもう決して戻ることはありません。

フォーカシングイリュージョンということばが心理学にあります。幸福を規定してしまう条件のことです。例えばお金や学歴がないと幸せになれないと思っている人にとっては財産や地位が…,結婚して子どもを持つことが幸福の条件と考える人には家庭がフォーカシングイリュージョンです。それではボクたちにとってタローはフォーカシングイリュージョンかというとそうではありません。タローは条件ではなく幸福を共有する構成員だったのです。

ですからボクたちはタローが我が家にやってくる前と同じく夫婦二人だけで共有する幸福を考えることにしました。それは去年までの燃えるような充実感を伴った幸福とは少し違うものになりましょう。これを秋と呼ぶことにしたのです。

秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてぞ偲ふ… 秋山吾は ( 額田王 「万葉集」1巻16)

ボクたちが生きる秋はなおみによってとてもよく調和されて規則正しく静かなものになるでしょう。ボクがそこに少しの創造力を加え,ボクたちらしい幸福を追求していこうと思うのです。タローは少しずつ夏の思い出にしていきます。

NEXT