ブレイドがウチに来たときのことをはっきりと覚えている。
ボクたちは幸せの絶頂にいた。そして幸せの日々をともにした。
最初の旅/妙高SAにて
旅のときだけではない。
通勤も買い物も,大型犬のタローを連れていればブレイドに乗らない日はなかった。
島原
ボクとなおみとタローとブレイド。いつでもどこでも一緒だった。
津軽
タローを喪ってまず車を替えようと思った。
ところがブレイドの調子があんまりいいものだからずるずると時が過ぎた。
タローはいなくなったが腰の手術後の経過が思わしくなかったので通勤はやはり車だった。
角島
走行距離が16万キロを大きく超えて先日はオルタネーターを交換した。
10万円超コースの部品交換が始まる気配を感じる。
潮時がきた。
いよいよ次の車の納車を二日後に控えて,FクンがETCとドラレコを取り外しに来た。
その作業中に誤ってナビの基盤の配線を切ってしまった。
ボクは夜勤明けにムリして来てくれた彼を慮って
「もう使わないからいいよ。」
と言ったが,Fクンはなんとか復旧しようと基盤と格闘していた。
なんの拍子かそのとき一瞬だけ通電してナビが正常に作動した。
「ぽ~ん♪今日は10月2日水曜日です。」
静かなトーンで女声が言った。始動のときに毎日聞いてきた声だった。
FクンがすかさずEjectボタンを押して中に残されていたCDを取り出した。
それはなおみが大事にしていたチャイコフスキーの交響曲だった。
その直後に大きなノイズがして,それっきり電源が入らなくなった。
さらばブレイド。さらば愛しき日々。
…そしてありがとう。