いつの間にか新緑の季節になった。
宅配便の仕事,体はキツいが一日中二人で過ごしているので気は楽だ。
卒業生やその親御さんなどがときどき教室を訪ねて差入れなどしてくれる。
退会する子も一人二人と出ているがこの状態でも見学したいという入会希望者もまたいる。
宅配はこんな細い路地を回ることが多い。
ボクは車で待っていてなおみを走らせるから楽だが,本当の宅配便の人たちは車を停めて自分で走る。
宅配便とボクたちとけっこうコースが被っている。
ただ宅配便は小回りの利く軽バンだ。ウチのオーリスは6速マニュアル。
低速で路地を巡るのはかなり車に悪い。
エンストしないように軽くアクセルをあおっても「ふぉ!!」と音がする。
通行人が眉をひそめる。
親友からは仕事で調達したエタノールが段ボールでどんと送られて来た。
他にも続々と友だちからマスクや消毒液が届く。
ボクたちに関してはもの不足は全く無縁である。
元気が出るようにとこんな虹を作るプリズムももらった。
ある日,なおみの携帯に電話が入った。
「シュウちゃーん。」
矢切の師匠からこういう猫なで声の電話はたいていろくなことがない。
「モニターが映らないんだよ。もうこれでもかというくらいあちこち調べた。
もしシュウちゃんが来て5分で直ったら腹を切らなくちゃならないってくらい。」
仕事が終わったら寄ります(;^_^A
「えーん(>_<)」
なおみが泣いた。この日は珍しく配達が早く終わりそうで
「家で夕飯が食べられるかもしれないと思ってたのに…」
矢切は矢切の渡しの対岸である。つまり千葉県である。
「県境を越えての不要不急の移動は控えてください。」
道路のサインボードが警告する。
必要急を要する。切腹がかかっている。
師匠の家に着いた。モニターが回復するのには2分かかった。
なにやら新しく備え付けた台のようなものがモニターの下部を圧迫して電源ボタンがオフになっていた。
職場の近くの蕎麦屋のガラスに大きく「ランチ時の出前も承ります。」と書いてあった。
ボクたちと同じように小さなお店は必死である。
ここ20年くらいピザすら頼んだことのない出前を頼んだ。
どういう法則かまだつかめないが,たまに宅配が明るいうちに終わったりする。
こういう時間に帰れるのは不思議な気分だ。
墨田川の夜景を撮るのも気力がなくなってきた。
体力は激しく消耗している。
もうすぐ連休。それまでの辛抱だ。