今日はたろたん。かつて我が家で最大のイベント日だった。
家の祭壇に花を足し,職場の受付にある電子写真立ての画像を入れ替えた。
誕生プレゼントを持ったこのかわいらしい訪問者は卒業生ではない。
K太のママである。K太とは写真集にもよく登場するタローと生年月日が同じあの子である。
この二人の共通点はそれだけではない。
まず名前が同じで,おない年,同じ大学に同時期に通っていた。
そして彼女がK太のために選んだバイオリン教室がボクたち夫婦が出会ったあの小さな音楽教室だったのだ。
大学のときは国語科と音楽科で面識はなかった。だからK太の入会時にそれを知る由もない。
初めての面談で,これらが一気にわかったときのお互いの驚きは筆舌に尽くしがたい。
いったいこんな出会いがあるものだろうか。
タローを亡くした翌日も,何かの用で偶然教室に立ち寄った彼女は最初の弔問客となった。
なおみは彼女に抱き着いて号泣した。
タローのいない最初のたろたんに花を供えに来ててくれたのにはボクが泣けて泣けて困った。
実は3年前,ボクはK太の中学受験に敗れた。人生最大の敗北と言っていい。
プロスポーツの監督がそうであるように,この世界ではどんなにがんばっても敗れた監督はクビになる。
だがK太ママは教室を変えなかった。
計画されていた引っ越しも延期した。K太をボクたちの教室に通わせてくれるためだった。
師弟として過ごしたK太との日々があと数日で終わる。それはボクたちにとって大きな大きな節目ともなる。