6月半ば、本当につまらないことで左手の人差し指を突き指した。弦楽器には致命傷だと分かった。鋭い痛みではないがチェロの練習はできない。ギターはローコードが押さえられないが腫れて太くなった人差し指がハイコードにはむしろ好都合だった。それでも鈍痛があるので自重した。チェロの練習日は10日ほど延ばしてもらった。
今は秋の発表会の曲と暮れの演奏会用の2曲だけを見てもらっている。練習不足で自分でもイライラするほど弾けない。
「先生、もう演奏会は諦めて、発表会の曲に集中しようと思うのですが…」
とボクが言うと、先生は
「そうですか。でもカノンもちょっと弾いてみてください。」
とおっしゃって、グダグダの演奏を聞く。
「じゃあ、今度は私が手でリズムを取りますからミスしても次の小節で復帰する練習をしましょう。はい、いちに…」
先生、それって本番のための練習ですよね。
…ボクは11月いっぱいまで練習だけは続けることにした。還暦を過ぎて諦めずに最後まで努力することの大切さを20代の先生に教わった。