前日,鉄橋を渡るSLを撮った河原に戻った。
津和野城の登山口を探すためである。一般観光客はリフトで登るがタローは乗せてもらえまい。
さあ,たんと食べて今日も山登りだ。
ふと見上げると内田康夫の小説に出てくる千本鳥居。
境内は犬が入れなかったが参道なら咎められないだろう。
誰かに聞こうにも,まだ早朝で人がいない。
まあ禁止の看板も見当たらないし,途中まで登ってみよう。
なかなか津和野殺人事件の雰囲気満点。
狐を脅かしちゃかわいそうだからそろそろ戻ろうか。
津和野川は桜が満開。
家族旅行ごっこ。
テーマパークのように整備された武家屋敷の町並みは少々ボクの守備範囲ではない。
用水路の石垣をコンクリートで埋めなかったのはかすかに良心が感じられる。
少し中心を外れた民家に昔日が濃い。
春城山の回りをぐるり一周。ようやく見つけた登山道は稲荷神社の手前だった。何度か通ったのだがゴミがうず高く積まれていて道には見えなかったのだ。駐車場もないので神社の第五駐車場みたいな空き地を借りる。
登山道の途中でリフトの下を潜った。
早く行こうよ。
出丸まで到着。たいへんな規模の遺構が遺っている。
本丸へ。
タローが最も苦手な金網のステップ。たぶん肉球が目にはまってしまうからだと思う。
ゆっくりゆっくり。はまるとパニックになって危ない。
無事通過。
自分でなんとかしろ。
おやつおやつ。
実はボクの腰がブレークしての大休憩中。
さて本丸に上がるか。
曇天だが春風は心地よい。
そろそろ降りようか。お腹もすいてきた。
少々グロッキーな父子。
下りも慎重に。
「ねえ,今回の山登りはこれでおしまいね。」
はいはい(;^_^A…釘刺された。
下山するとちょうど今日のSLやまぐち号が到着する時刻。すわ,稲荷神社の大駐車場に急げ。
ところがどうも様子がおかしい。
昨日の午後は河原にあふれ,この駐車場にも鈴なりだった撮り鉄の姿がどこにもない。
理由はすぐにわかった。午前中は駅に向かって下り坂のため,SLが全く煙を吐かないからだ。
海岸線を再び萩に戻る。島根と山口の間をいった何度往復しただろう。
菊屋横丁に着いたのは夕暮れ近く。タローはよっぽどくたびれたのか車から下りようとしないので車中に留守番させることにした。
初めて訪ねたのはなおみがまだ10代の頃だった。町のあちらこちらに思い出が濃い。
高杉晋作生家。
時間を30分近く過ぎていたのに,ボクたちの様子を見かねてか係の人が招じ入れてくれた。25年ぶりの思い出がぽろぽろとこぼれる。
はいはい。
20数年前,家出同然に学生結婚していたボクたちはとにかく笑っちゃうほど貧乏だった。店先の段ボールに積まれた1個500円の萩焼の茶碗が買えなかった。なおみはいくつかの箱をくまなく漁って色と形が似ていて大きさがちょっと違う2つの茶碗を探し出した。
「夫婦茶碗っぽいでしょ。」
そう言いながら買うのをあきらめた。当時から家計の全権を彼女が握っていたので,ボクは従うしかなかった。萩の町をずいぶん離れてからなおみが急に言った。
「やっぱり欲しい。」
閉店間際の店に戻ると店主が覚えていて,二つで900円にまけてくれた。
同じ店がタイムスリップしたかのようにそのままあった。ボクの感傷をよそに,なおみは相変わらず店先の見切り品を熱心に漁っている。犬がいては今夜も車泊。25年前と旅はあまり変わらない。
野山獄から松下村塾。
流れで幕末歴史探訪が始まった。
夜来,霧雨。タローの夕飯も車の中。