早崎瀬戸に日が昇る。宇土半島の山々が稜線をくっきりと見せる。一際高いのは宇土大岳だろうか。
また原城跡を訪ねてきた。
ほねかみ地蔵
地元のご夫婦がやってきて,真新しい榊と水と線香を手向ける。ロザリオを抱いて首を斬られたカトリック信者たちも喜んでいるだろう。400年が経ってもこの地の慰霊は絶えることがない。
徳川幕藩体制の確立,生き残ろうとする諸藩,宗教を利用してアジアの覇権を争うスペインやオランダなどヨーロッパの大国,それぞれの自己中心的事情が全く罪のない1万数千人の虐殺を生んだ。
本丸の石垣を撮ろうとしたら人影が見えた。よく見ると,なーんだタローか。
最近はなおみと先行しても,ボクの姿が見えなくなると不安になるのか,こうしてボクを探す。
本丸から普賢岳と海を臨む。ボクが島原で最も愛する風景の真ん中に異変が起こっていた。
誰もこの愚行に異議を唱える方はいなかったのだろうか。
このネーミングはどうだろう。周辺の世界遺産登録に伴って,この地に外国人観光客がわいわいと集まり,戦国の夢を楽しむことをあるいは望んでいるのだろうか。
とまれ本丸には春らしい海風が吹き抜けてゆく。
天草四郎時貞墓(慰霊碑)
ずいぶんと長く過ごしてしまった。
原城跡を慰霊に訪れたのは4度目。
これが最後になるかもしれない。
半島の西側にあるいつもの寄り道スポットを目指して雲仙の峠に向かう。その途中,展望台でタローの朝食にした。
九州には珍しいババヘラアイスが売っていた。
例によってただの駐車場でさんざん遊んで車を出そうとしたそのときだった。
繁みから一頭の野良犬が現れて物乞いに来た。毛並みの美しい洋犬だ。
車のドアを開けるとさっと逃げる。人間に捕まればやがて殺されることを本能的に知っているようだ。
観光客が車窓から投げてくれる食べ物で飢えをしのいでいる。傍には決して近づいて来ない。
それでもなおみが車を降りて,根気よくいざなったのは,その犬の乳が張っていたのを見つけたからだ。
捨てられて,人を信じなくなった彼女が危険を冒して物乞いするのは自分のためではない。お腹の子のためだ。
ねえ,食べて。これはとっても栄養がある餌なのよ。
一粒ずつアイムスを地面に置いて声をかけながら誘導する。この程度のトラップを見破れないはずはないのに,犬はなおみに着いてゆくようになった。
おいで。えらいね。…ごめんね…ごめんね。
その様子に気圧されたのか,後部シートのタローも自分の餌が撒かれているのをいるのを大人しくじっと見ている。
さあ,食べてね。
安全なところに餌を盛ってその場を離れると,入れ違いに犬が餌に近づいた。
客観的に言えば,ボクたちがしたのは野良犬が増えるのを助長する迷惑行為にあたるだろう。
だけど,他にどうすることができただろう。なおみが口にした言葉をボクも胸の中でつぶやいた。
ごめんね。
観光客で賑わう雲仙の温泉街を通り抜け,西の斜面を下った。
ここは人混みが苦手なボクのお気に入り観光地だ。
なおみが橋の上で点景モデルするのも4度目。前回立ち寄ったときは真夏のフェーン現象で気温が体温より高かった。今回は芸達者のニューモデルもいる。
タロー,顔でかいね(笑)
長旅で疲れているのか海を見てもあまり行きたがらない。
それでもサギの姿を見つけるといそいそと寄って行く。サギが面倒くさそうに,それでもいちおう猟犬に敬意を払ってかのっそり飛び立つ。
パパ―,どう?撮れた。
うっかり,荒川の土手で使って以来,これは自分の仕事だと思っている。
今回,改めて思ったがこの海辺の村落の家並も石橋と同じくらいに美しい。
タローがバテている。
あんまり初日に阿蘇で飛ばすからだよ。
犬は年を取ってもペース配分ができない。
お昼はちゃんぽんにしようと一決した。なにしろ長崎県である。地鶏のダメージもだいぶ回復してきた。
タロー,大丈夫か。窓,開けていくけどパソコンやレンズの番をちゃんとしてくれよ。
皿うどんに辛子をくださいと店の人に頼むと,びっくりして「辛子はないんですけど…」と言う。こちらがびっくりした。どうやらちゃんぽんは地方によって色々なバリエーションがあるらしい。ここは当然,小浜風である。
小浜風ちゃんぽんは,さすがに海鮮だしが素晴らしい。
諫早の手前で島原鉄道の撮影をした。
電車を待つ間に食べているのはカステラ屋さんでもらった端切れ。お土産に二本買っただけなのに,ちゃっかり貰って来た。
撮影にお邪魔した田んぼは一面にレンゲソウが咲いていて,会話が難しいほど,ヒバリやゴジュウカラが鳴き競っていた。おかしなもので,こんな田んぼのシーンが旅でいちばんの思い出になったりするものだ。
詳しくは→ 旅鉄/19「しまてつ」
今日は九十九島で夕日を見たい。少し急いで高速を使うと,サービスエリアにハートのモニュメント。その前にカメラを置く台が設置されている。それではと家族写真…
ありゃりゃ,後から見たらタローは立っているのがやっとの様子である。
それでもボールを見ると反射的に投げてよコールを始める。
でも体力弱ってるからフェッチはやめてキャッチボールね,
そーれ。パク♪
佐世保に入り検索しておいた銭湯を探すが,そばにいるはずなのになかなか見つからない。
なんとマンションのビルの二階にあった。
1階は駐車場になっていた。
やはり,放浪旅の湯は銭湯に限る。例によって,女湯からは天井伝いになおみが楽しそうに話す声やシャワーを取りそこなった悲鳴が賑やかに聞こえてくる。
それを耳にしながら,なぜか額にしわ寄せてむっつり入っている人の多い男湯に身を沈める。至福の時間だ。
米軍基地や造船所を通り抜けて九十九島の展望台に来た。ここは有名らしく,外国人も多いが,さすがに夕日を目指してくる人は一部変わった人だけだ(笑)
車で待つこと一時間。
そろそろドラマの始まる時間。
入日を見届け,急いで佐世保に引き返す。米軍基地の回りは街路樹や歩道までがアメリカだ。ロサンゼルスの郊外を走っっているような錯覚に陥る。米兵の車は信号をあまり守らない。
なおみがせかす目的はこれだ。
よかった。開いてた。だが…
「もう,お持ち帰りだけしかお受けできないんですけど。」
そう言いながら,あんまりしょんぼりしているなおみを見るに見かねたのだろう。シーっとナイショポーズでカウンター席に招じ入れてくれた。
12年前に食べそびれた佐世保バーガー!!
もちろん,きくおちゃんも推しているいちばん旨い店を選んできた。
造船所の夜景を撮って,さあ,これから今夜は一気に玄海灘まで走るつもりだ。