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アイドル

  • 2023/04/16 13:15

4月15日

タローを喪ったとき,ひときわ明るい色の花が送られてきた。多摩センター時代の教え子A奈からである。彼女らしい色合いにボクたちは泣きながら癒された。花といっしょに「虹の橋」の絵本もくれた。それから毎年命日には大きな花かごを送ってくる。3年目にボクらから「今年でお終まいにして」と頼むと4年目からは手紙やメッセージが届くようになった。

彼女は中学生のときからアイドルのように可愛らしかった。声はアニメ声だった。教室を江東区に移転開校したときは,チラシ配りに駆けつけてくれた。暫くして教室で事務のアルバイトをするようになった。大学をはさんで江東区から多摩センターまでの通勤時間は2時間近かった。そのバイト料をすべてつぎ込んで教室の英会話クラスのニューヨーク旅行に参加した。

結婚式にもボクたちを招待してくれた。花嫁はおとぎの国のお姫様のように美しかった。ボクは乾杯の音頭という生涯一度の大役を任された。

赤ちゃんが生まれたときにはまた2時間かけて教室まで報告に来てくれた。 

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「八ヶ岳に行く前に」と,調布でA奈とお昼を一緒にした。

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「先生たちちっとも変っていない。」

そう言うA奈こそおとぎの国のお姫様のままだった。

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薄々は感じていたが,彼女の結婚生活が不調に終わったことを初めて聞いた。なぜこんな子に試練を受けさせる必要があるのだ。たぶん彼女は美の女神の嫉妬を買った。A奈がタローを喪ったボクたちを慮って花や手紙を送ってくれていた日々は彼女自身にとっても辛い日々だったことを思うと鼻の奥がつんとなった。でもそういうのはA奈のキャラに合わないので,ボクらは笑顔のまま,山での再会を誓って別れた。彼女の息子は今年中学校に入ったそうだ。ボクたちはいつか彼の役に立てるような人間であり続けようと思う。

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